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Q2 【具体例付】個人事業主の開業費の範囲・会計処理・いつまで開業費で認められる?

最終更新日:2024/04/09

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Q2 個人事業主の開業費

この記事は税理士/濱田隆祐により執筆されました。

公認会計士・税理士:濱田隆祐(はまだりゅうすけ)

濱田会計事務所の代表税理士
近畿税理士会 神戸支部:登録番号121899
日本公認会計士協会 兵庫会:登録番号17074
兵庫県行政書士会:登録番号19300373
1973年生まれ、大阪府豊中市出身
あずさ監査法人出身
クレアビズコンサルティング株式会社:代表取締役
YouTubeチャンネル:濱田会計事務所のちょっとお得な税金の豆知識
相続専門サイト:御影みらい相続センター

個人事業主が開業する際には、さまざまな支出が発生します。税務署への「開業届」を提出する前に支払う場合も多いかと思います。そこで今回は、「いつの支払」が開業費で認められるのか?開業費の範囲はどこまでか?など実務上迷いそうな論点をまとめます。

 

1. 個人事業主の開業費の範囲は?法人と異なる点

(1) 開業費とは?法人との違い

開業費とは、開業準備のために特別に支出する費用のことです(所施令7条1項1号)。開業前までの費用が対象となり、一般的には開業届に記載する開業日前の支出を開業費として計上するケースが多いです。定義では「特別な支出」とされていますが、実務上は、法人よりも個人の方が「特別な支出」の範囲は広いと解釈されています。法人の場合は、経常的な支出は開業費に含まれませんが、個人の場合は、 消耗品費や家賃、 電気代などの経常的な支出も開業費とすることができると解釈されています。

また、範囲や上限も特に決められていませんので、「開業にかかった費用」という説明ができれば、上限なく「開業費」として計上できます。

 

(2) 開業費に含まれるもの(個人事業主)

個人事業主の場合、経常的な支出も含めて、開業前の支出はすべて「開業費」として処理が可能です。

(例示)
通信費、消耗品費、水道光熱費、名刺、広告宣伝費、交際費、打ち合わせ費用、ガソリン代、家賃、交際費、交通費、従業員給料など

 

(3) 開業費に含まれないもの(個人事業主)

通常の仕入、車や備品等の固定資産、テナント入居時の礼金などは、そもそも「開業のために支出した費用」とはいえませんので、それぞれ仕入、固定資産等で計上します。

(開業費に含まれないもの)

仕入仕入で計上
車両・備品など固定資産として計上し、耐用年数に応じて経費処理
礼金税務上の繰延資産(長期前払費用)として、一定年数で償却

なお、「固定資産」や「敷引」については、金額が少額の場合、一括で経費に計上できる特例があります。詳しくはQ31Q67をご参照ください。

 

2. いつまでの経費が開業費?

個人事業主の場合、法人と異なり、法人設立登記完了後の費用に限定されていませんので、「開業日までの支出」であれば、すべて対象となります。
ただし、あくまで「開業のために必要な支出」である必要がありますので、客観的な資料で「開業費」であることが説明できる必要があります。
一般的には、開業前6か月~12か月程度までが妥当なラインのようです。
なお、税務署に「開業届」を提出しているかどうか?は関係ありません。開業届提出の有無にかかわらず、利益が生じた場合は「申告義務」が発生します。

 

3. 開業費の会計処理・償却期間

(1) 繰延資産として償却

開業費は、一旦「経費」ではなく、「繰延資産」として「資産」で計上します。

 

(2) 償却期間

開業費の償却は、60カ月均等償却又は任意償却のどちらかとなります。任意償却は、繰延資産の額の範囲内の金額を「償却費」として認めるもので、金額制限は設けられていません。つまり、支出時に全額償却してもよく、全く償却しなくてもかまいません。ここでようやく「経費」にできることになります。
また、開業費を支出後60カ月以内に経費にしなければいけないという規定もありません。したがって繰延資産の未償却残高は、60カ月を超えても、いつでも「償却費」として必要経費に算入できます

 

4. 節税として利用可能

上記の通り、開業費の償却は「任意償却」となりますので、利益が生じたタイミングで自由に「経費」にすることが可能です。
例えば、初年度は赤字のケースも多いと思いますが、赤字の場合にはそもそも税金がかかりませんので、償却を行っても税金が減るわけではありません。そこで、初年度は開業費の償却を行わず、利益が出たタイミングで償却することも可能です。利益が生じた期に「償却」を行えば、税金の支払が少なくなりますので、キャッシュフローの改善につながります。

 

5. 仕訳のタイミング?具体例

開業費は、一般的に「開業日に仕訳」を行います。あくまで「開業時点」から会計年度が始まるからです。一般的には、税務署の「開業届」に記載した「開業日」になります。

(具体例)

● 開業日 2021年3月1日
① 2020年12月に事業用テナント敷金20万円、敷引30万円、家賃3か月分15万円を支払った。
② 2021年2月に、開業パンフレット外注費3万円を支払った。
③ 2021年2月に、単価40万円の備品を購入した。
④ 2021年2月に、商品30万円を仕入れた。
開業費は、均等償却するものとする。

 

(1) 開業日の仕訳
借方貸方
3/1 敷金(資産)
長期前払費用(資産)
開業費(資産)
200,000
300,000
150,000
元入金 550,000 (※1)
3/1 開業費(資産) 30,000 元入金 30,000 (※2)
3/1 備品(資産) 400,000 元入金 400,000 (※3)
3/1 仕入(経費) 300,000 元入金 300,000 (※4)

(※1)敷金は将来返還されるため、「敷金」(資産)で計上。一方、敷引は返還されないため、税務上の繰延資産(長期前払費用)で計上。家賃は開業費で計上OK
(※2)開業にかかるパンフレットのため、開業費で計上OK
(※3)開業後に利用する備品は固定資産のため、開業費×。「備品」(固定資産)で計上
(※4)仕入商品は、通常の営業業務にかかる費用のため開業費×。「仕入」で計上

開業費の会計処理の日付は「開業日」となります。
● 元入金(もといれきん)とは「個人事業主専用の勘定科目」で、個人事業主が開業する際に確保する「事業資金」を示します(法人の資本金に該当)。

 

(2) 決算日の仕訳
借方貸方
12/31 開業費償却
長期前払費用償却
30,000
50,000
開業費
長期前払費用
30,000
50,000
(※1)
(※2)

(※1)開業費合計 150,000+30,000=180,000円
⇒均等償却する場合は180,000円÷60カ月×10か月(3月~12月)=30,000
借方は、「開業費償却」という「経費」の勘定科目を利用します。
任意償却の場合は、償却の金額は自由となります。全額でも、ゼロでも構いません。
(※2)敷引は、税務上の繰延資産(長期前払費用)として、60カ月で償却します。
300,000円÷60カ月×10か月=50,000円

 

6. 参照URL

(償却期間経過後における開業費の任意償却
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/04/08.htm

 

7.YouTube

 

YouTubeで分かる「個人事業主の開業費の範囲」
 

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