税金の豆知識
Q191 【自宅を事業転用】個人利用資産を事業用に転用した場合の減価償却の計算方法(新品・中古)
最終更新日:2024/06/2228996view
プライベートで利用していた固定資産等(不動産・備品等)を、事業用に転用するケースもあると思います。
例えば、持ち家の一部を事業として利用する場合や、個人で利用していたPCをビジネスで利用する場合などのケースです。
こういった場合、事業転用後の固定資産の「減価償却」はどのように計算するのか?という論点です。
事業転用時の取得価額や、耐用年数は何年で償却するのか?疑問が生じます。
今回は、プライベートで利用していた資産を、事業用に転用した場合の減価償却費の計算方法につき解説します。
(以下、プライベート利用は「非業務用」、仕事利用は「業務用」と略します)。
目次
1. 事業転用した際の減価償却計算の概要
プライベートで利用していた固定資産を業務用に転用する場合、大きく、以下の2つの計算ステップをふみます。
① 業務用転用時の価値を算定(未償却残高相当額)
② 業務用転用後の減価償却の計算を行う
(1) 業務用転用時の価値を算定(未償却残高相当額)
一般的に、モノは、利用とともに「価値」が劣化していきますので、プライベートで利用していたものを、業務用に転用した時点では、当初の取得価額よりも「価値」は減少しています。
そこで、まずは、業務用転用時点の「価値」を算定する必要があります。
具体的には、「非業務用の耐用年数」を用いて、業務転用時点の未償却残高の算定を行います。
なお、業務用と非業務用では、「耐用年数」や「減価償却方法」が異なります。
税法で規定されている「法定耐用年数」は、「業務用」が前提となりますので、「非業務用」の場合は、業務用の耐用年数を1.5倍して計算します(事業で使う方が早く消耗すると想定されるため)。
(2) 業務用転用後の減価償却計算を行う
業務用転用後の減価償却計算は、「業務用の耐用年数」で行います。
以下、上記(1)(2)それぞれの詳細を説明していきます。
2. 業務用転用時の価値を算定(未償却残高相当額)
業務用転用時点までの減価償却費を算定し、転用時点の未償却残高を算定します。
具体的な算定方法は以下となります。
耐用年数(非業務用) | 当該減価償却資産に係る(業務用)法定耐用年数×1.5 |
---|---|
償却方法 | 旧定額法 (取得価額×0.9×旧定額法償却率) |
未償却残高 | 取得金額-上記で算定した非業務用期間の償却金額 |
(1) 耐用年数(非業務用)
非業務時期の耐用年数は、新品・中古関係なく、法定耐用年数×1.5で行います。
中古資産でも、法定耐用年数を採用し、中古資産の「見積耐用年数」を用いるわけではない点、注意が必要です。
⇒1.5倍した年数については、1年未満の端数は切り捨て
(2) 償却方法
非業務時期の減価償却方法は、「旧定額法」で固定されている点、注意が必要です。
(旧定額法のため、取得価額の95%が限度。5%は必ず残る)
(3) 未償却残高
取得価額から非業務期間の償却金額を差し引いて算定します。
「非業務用期間の年数」については、6月以上の端数は1年、6月未満の端数は切り捨てします。
3. 業務用転用後の減価償却の計算を行う
業務用転用後の減価償却費を算定します。具体的な算定方法は以下となります。
耐用年数(業務用) | 当該減価償却資産に係る(業務用)法定耐用年数or中古資産の耐用年数 |
---|---|
償却方法 | 当該資産の取得日により異なる |
償却額の計算 | 当初取得価額をもとに償却額を算定 |
(1) 耐用年数
転用後の耐用年数は、業務用の耐用年数で計算します。非業務用と異なり、1.5倍しない点に注意します。
非業務時代に購入した対象物が⑪新品の場合は法定耐用年数、②中古資産の場合は、中古資産の耐用年数となります。転用時点の「残存耐用年数」を算定するわけではない点、注意が必要です。
新品の場合 | 法定耐用年数(業務用) |
---|---|
中古の場合 | 合理的見積使用可能年数か簡便法(業務用) |
● なお、中古資産の場合の「経過年数」は、新築等されてから中古資産を取得した時までの期間になります。
転用した時期は関係ありませんので、この点も注意が必要です。
(2) 償却方法
業務用転用後の減価償却方法は、「旧定額法」ではなく、新品or中古資産の取得年月日で判断します。
以下の通りとなります。判断日は、「事業転用日」ではない点、注意が必要です。
取得年月日 | 建物 | 建物附属設備・構築物 | 左記以外 |
---|---|---|---|
H10/3/31以前 | 旧定額法or旧定率法 | 同左 | 同左 |
H10/4/1~H19/3/31 | 旧定額法 | 旧定額法or旧定率法 | 同左 |
H19/4/1~H28/3/31 | 定額法 | 定額法or定率法 | 同左 |
H28/4/1以降 | 定額法 | 同左 | 定額法or定率法 |
(3) 償却額の計算
転用後の減価償却費は、転用時点の未償却残高が上限となりますが、毎年の減価償却費の算定は、対象物件の取得価額をもとに、償却率を掛け合わせて計算する点が特徴的です。「転用時点の未償却残高」を利用するわけではない点、注意が必要です。
4. 新品の場合の具体例
● 2022年1月に、プライベートで「新築建物」取得(木造 法定耐用年数22年)。
● 取得価格 22,000,000円
● 2023年1月から100%、個人事業主の「業務用」に転用した。
● 消費税については無視する。
(1) 未償却残高相当額の計算
① 非業務期間の耐用年数
木造22年 × 1.5 =33年 (33年の旧定額法の償却率 ⇒0.031)
② 非業務期間
2022年1月~2023年1月 1年1カ月⇒切り捨て1年
③ 非業務期間の償却額 (旧定額法)
22,000,000円 × 90% × 0.031 × 1年 = 613,800円 ⇦償却済額
④ 業務転用時の未償却残高
22,000,000円 – 613,800円 = 21,386,200円 ⇦未償却残高
(2) 業務転用後の減価償却費の計算
① 転用後の耐用年数
新品のため「法定耐用年数」を採用⇒22年、定額法(償却率0.046)
⇒業務用のため1.5倍しない、償却方法は旧定額法ではない点注意
② 減価償却費(2022年1月~2022年12月)
22,000,000円(当初取得価額)× 0.046 × 12/12 = 1,012,000円
⇒当初取得価額をベースに償却計算を行う点注意
5. 中古資産の場合の具体例
● 2022年1月に、プライベートで「中古建物」取得(木造 法定耐用年数22年)
● 取得価格 22,000,000円
● 上記の中古建物は、2015年1月に完成したものとする
● 2023年1月から100%、個人事業主の「業務用」に転用した。
● 消費税については無視する。
● 転用後の中古資産の耐用年数は「簡便法」を採用するものとする。
(1) 未償却残高相当額の計算
① 非業務期間の耐用年数
木造22年 × 1.5 = 33年(33年の旧定額法の償却率 ⇒0.031)
⇒ 中古耐用年数を利用するわけではない点注意
② 非業務期間
2022年1月~2023年1月 1年1カ月⇒切り捨て1年
③ 非業務期間の償却額(旧定額法)
22,000,000円 × 90% × 0.031 × 1年 = 613,800円 ⇦償却済額
④ 未償却残高
22,000,000円-613,800円=21,386,200円 ⇦未償却残高
(2) 業務転用後の減価償却費の計算
① 経過年数(中古資産の耐用年数)
2015年1月から2022年1月・・・7年1か月⇒切り捨て7年
⇒事業転用日までの経過年数ではない点注意
② 転用後の耐用年数(中古資産・簡便法)
(22年 – 7年)+ (7年 × 20/100) = 16.4年 ⇒切り捨て16年
中古資産取得日2022年 建物のため「定額法」を採用(16年の償却率0.063)
⇒業務用のため1.5倍しない、償却方法は旧定額法ではない点注意
③ 減価償却費(2022年1月~2022年12月)
22,000,000円(当初取得価額)× 0.063 × 12/12 = 1,386,000円
⇒当初取得価額をベースに償却計算を行う点注意
6. 一部を業務用に転用する場合
例えば、自宅の一部を業務用に利用する場合など、事業転用部分が一部の場合は、「事業利用割合」を算定し、当該事業利用割合部分だけ「非業務用から業務用に転用」するものとして計算を行います。
7. 参照URL
(No.2108 中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2108.htm
(No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2109.htm
(非業務用を業務の用に供した場合)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/04/17.htm
(耐用年数)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf
(償却率)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070412/pdf/3.pdf
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