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Q205【未払残業代】退職時の「未払残業代」の所得区分は退職所得?社会保険料の取扱いは?/和解金・一時金で支給された場合は?

最終更新日:2023/12/15

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Q205【未払残業代】退職時の「未払残業代」の所得区分は退職所得?社会保険料の取扱いは?/和解金・一時金で支給された場合は?

この記事は税理士/濱田隆祐により執筆されました。

公認会計士・税理士:濱田隆祐(はまだりゅうすけ)

濱田会計事務所の代表税理士
近畿税理士会 神戸支部:登録番号121899
日本公認会計士協会 兵庫会:登録番号17074
兵庫県行政書士会:登録番号19300373
1973年生まれ、大阪府豊中市出身
あずさ監査法人出身
クレアビズコンサルティング株式会社:代表取締役
YouTubeチャンネル:濱田会計事務所のちょっとお得な税金の豆知識
相続専門サイト:御影みらい相続センター

「残業代」を支払わない「ブラック企業」は社会問題となってますが、従業員側は、労働基準法に基づき、過去の未払残業代を会社に請求することが可能です(時効分は除く)。
この点、「未払残業代」は、後日にまとめて入金されることから、所得税や社会保険が課税されるのか?課税される場合の所得区分等、疑問に思われる方もいるかもしれません。
今回は、「未払残業代の所得区分」や「社会保険料徴収の可否」につき解説します。

 

1. 原則 給与所得

未払残業代の支払を受けた場合、所得税等が課税されます。「未払残業代」にかかる税務上の取扱いは、以下の通りです。

 

(1) 給与所得

未払残業代の実質内容は、過去の「給与」の後払い的な性格となりますので、原則「給与所得」になります。
したがって、たとえ、名目が「退職金」となっていても、あくまで未払残業代は給与所得ですので、「退職所得」での申告は認められません

 

(2) いつの時点の給与所得か?

未払残業代がまとめて入金される場合でも、「残業代が支給される予定だった日の属する各事業年度の給与所得」とする考え方があります。しかし、当該考え方に基づくと、過去の給与所得の再計算及び源泉徴収が必要となり、実務上は、支払側に多大な負担が生じます。
私見とはなりますが、過去の残業代未払が常態化している状況では、支給日に法律通り残業代が支給されていた可能性は低いといえます。したがって、こういったケースでは実際残業代請求が行われた時点で「未払残業代」は確定し、「一時に給与所得が発生」すると考えるのが、実務上の目安ではないでしょうか。

 

2. 「和解金」名目で支給された場合は「一時所得or雑所得」

一方、「和解金」という名目で、実質的に「未払残業代相当額」が支給される代わりに、「未払残業代」はなかったものと取り扱われるケースもあります。こういった「和解金」として支払を受けた場合も、「未払残業代」と同様、所得税等が課税されます。

 

(1) 一時所得か雑所得か?

「和解金」として支払を受ける場合、受取側の所得区分は、「一時所得」か「雑所得」か?という論点があります。それぞれの考え方は以下の通りです。

雑所得とする考え方実質的に、「和解金」を支給するに至った原因は「残業代=給与」であり、給与と同様、何らかの対価性はあるものと考え、雑所得とする。
一時所得とする考え方和解金は、従業員との交渉により、「一種の紛争解決金」として支給するものであり、労働対価から生じたものではないものと考え、「一時所得」とする。

ポイントは、「和解金」という名称に関わらず、支払内容に「対価性」があるかという点となります。

 

(2) 実務上は「一時所得」が多い

実務上は、会社と従業員両者の歩み寄りにより、金額根拠が明確でない「紛争解決金」として和解金を支給するケースが多く、「一時所得」として処理するケースが多いと思われます。
なお、直接的な裁判例ではありませんが、賃金格差に基づく「較差補てん金」にかかる「損害賠償金」につき、その実質は「請求人の労務の提供に対する対価」と解釈する判例も存在します。

 

(3) 非課税の可能性は?

「和解金」名目でもらった分は、受け取った側に利益が生じないため「課税されない」と思われる方もいるかもしれません。所得税法では、損害賠償金やこれに類するもので、「心身に加えられた損害等に起因して受け取るもの」は非課税とされています。それぞれの状況に応じた実態判断となりますが、単に和解契約で「損失を補てん」すると記載されていても、実際に「客観的な損害」が生じていない場合は非課税にはならず、課税対象となります。
一般的に、未払残業代に相当する和解金が支払われる場合は、非課税にならないケースが多いと思われます。

 

3. 会社側の会計処理・源泉徴収有無

従業員側の所得区分(給与、一時、雑)に関わらず、会社側は、支払日の属する事業年度に「確定した費用」として損金の額に算入します(債務確定主義 法22条)。
未払残業代として支給する場合は、給与所得となり、源泉徴収が必要となります。この場合、在職中の給与等の追加払いを「一時に支払うもの」と考えると、「賞与」の源泉徴収税額の計算になると思われます。
一方、和解金として支払う場合は、「労働対価」ではありませんので、源泉徴収は不要かと思われます。

区分源泉徴収の有無
未払残業代として支給する場合賞与にかかる源泉徴収税額を徴収
和解金として支給される場合不要

 

4. 社会保険の取扱い

税法と同様、「残業代が支給される予定だった日の属する各事業年度の給与所得」として、社会保険料も、各事業年度に遡って再計算する考え方もあります。しかし、当該考え方では、税法と同様、支払側に多大な負担が生じます。
実務上は、会社と従業員の合意のもとで、社会保険上、未払残業代を支払った月の「賞与」として、一時に社会保険料が課税されると考えるのが無難かと思われます。
一方、和解金として支払う場合は「賃金の実質を有しない性格」となるため、社会保険料は発生しないと思われます。

区分社会保険料の取扱い
未払残業代として支給する場合賞与としての社会保険料を計算
和解金として支給される場合発生しない

 

5. その他の支払額の取扱い

残業代本体以外に、「遅延損害金」や「付加金」が支払われる場合もあります。これらを受け取った側の「税務上の取扱い」は、以下となります。

遅延損害金過去の未払残業代の支払遅延による損害補てんとして「遅延損害金」を請求することが可能です。「遅延損害金」の性格は、「残業代の支払遅延という継続的行為に起因した「利息」に相当することから「雑所得」に該当します。
付加金「付加金」とは、労働者が、裁判により未払残業代を請求した場合、「裁判所の裁量」で会社に支払が命じられる金銭です(労基114条1項)。「付加金」は、残業代支払を怠った会社への制裁的措置の一種であり、対価性がありませんので「一時所得」となります。
解雇予告手当金労働基準法第20号(解雇の予告)の規定による「解雇予告通知」なしに使用人を解雇する場合、使用人に30日以上の平均賃金を支払う必要があります(解雇予告手当金)。当該解雇予告手当は、「退職所得」となります。

 

6. 参照URL

(平22.4.22、裁決事例集No.79)

https://www.kfs.go.jp/service/JP/79/11/index.html

解雇予告手当

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2736.htm

 

7. YouTube

 

YouTubeで分かる「未払残業代」
 

この記事は税理士/濱田隆祐により執筆されました。

公認会計士・税理士:濱田隆祐(はまだりゅうすけ)

濱田会計事務所の代表税理士
近畿税理士会 神戸支部:登録番号121899
日本公認会計士協会 兵庫会:登録番号17074
兵庫県行政書士会:登録番号19300373
1973年生まれ、大阪府豊中市出身
あずさ監査法人出身
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