税金の豆知識
Q213【計算例付】外形標準課税(事業税)の適用対象・計算方法をわかりやすく解説/税率は?/資本金1億円超の判定と資本割計算(資本金等の額)の違い
最終更新日:2025/03/158129view

法人事業税は、通常、所得に対してのみ課税されますが、資本金1億円超の法人の場合、所得だけでなく、外形(付加価値・資本金)に対しても課税される外形標準課税が適用されます。
外形標準課税が適用される場合は、赤字の場合でも事業税が発生することになります。
今回は、外形標準課税の内容や、具体的な計算方法等につき解説します。
目次
1. 外形標準課税の適用有無判定は「資本金」のみ
外形標準課税が適用される会社の判定は、各事業年度末日の「資本金の額」が1億円超かどうか?だけで判定し、資本準備金等の金額は含めません。
当該「資本金の額」は、例えば、住民税均等割等算定時の「資本金等の額」とは異なりますので、十分な留意が必要です。
なお、一般社団法人・財団法人は、「資本金の額」に関係なく、外形標準課税の「対象外」となります。
2. 外形標準課税の計算は3つの合計
外形標準課税は、「所得割」「付加価値割」「資本割」の3つの要素から計算されます。
税率は各都道府県によって異なりますが、兵庫県の場合は以下となります(「超過税率」が適用)。
構成要素 | 税率 | |
---|---|---|
外形標準課税 | 所得割 | (※)1.18% |
付加価値割 | 1.26% | |
資本割 | 0.525% |
(※)兵庫県の場合は、超過税率(標準税率は1.0%)。
上記の他、特別法人事業税(国税)が課税されます(所得割(標準税率)×260%)
(1) 所得割
法人税上の「所得」に対して課税されます。繰越欠損金控除後の所得となります。
したがって、赤字の場合、所得割は発生しません。
(2) 付加価値割
「付加価値」に対して課税されます。付加価値とは、企業活動で生み出した価値のことをいい、具体的には、以下の式で算定されます。付加価値割は、赤字の場合でも発生する可能性があります。
付加価値割=単年度損益+収益配分額(=①報酬給与額 + ②純支払利子 +③ 純支払賃借料)
「単年度損益」、「収益配分額」については、後ほど、「3.」で解説します。
(3) 資本割
住民税上の「資本金等の額」に対して課税されます。ここでの「資本金等の額」は、上記「1.外形標準課税の適用有無判定」の「資本金」ではなく、「資本準備金」なども含めた金額となる点、注意が必要です。
資本割は、赤字の場合でも発生します。
なお、持ち株会社等の場合、資本割の課税標準を一定額「減額」できる規定があります(特定子会社の株式等に係る控除措置)。特定子会社(発行済株式総数の50%超保有)の帳簿価額が、総資産の50%超の場合に減額が可能です。
3. 付加価値割の構成要素
付加価値は、以下の式で計算されます
付加価値割=単年度損益 + 収益配分額(報酬給与額 + 純支払利子 + 純支払賃借料)
(1) 単年度損益
付加価値割を計算する際の「単年度損益」とは、法人税上の「益金」から「損金」を差し引いた金額を指し、「繰越欠損金控除前」の金額となる点、「所得割」の計算と異なります。
また、「単年度損益」がマイナスの場合は、「収益配分額」から控除することができます。例えば、単年度損失が大きく、収益配分額から控除した結果、付加価値割がマイナスになる場合は、付加価値割はゼロとなります。
ただし、最終的な「付加価値割」がマイナスになったからといって、翌年以降への繰越は認められません。
(2) 報酬給与額
役員や従業員に支払う報酬、給与、賃金、賞与、退職手当等の合計額となります。法人税上、損金の額に算入されるものが対象となるため、未払給与等も含まれます。
実務上、細かい論点がいろいろありますが、代表的な取引を以下にまとめておきます。
中退共掛け金・確定拠出年金 | 事業主負担部分は、報酬給与額に含まれる。 |
---|---|
出向給与 | 他社に出向している場合 ● 出向元法人での受入出向負担金は報酬給与からマイナス ● 出向先法人の支払報酬負担額は報酬給与として集計。 |
法定福利費(健康保険・雇用保険等)・通勤交通費 | 原則として含まれない。ただし、非課税限度額を超える通勤手当は含まれる(消費税除く)。 |
各種引当金(賞与・退引繰入等) | 含まれない |
派遣会社に支払う報酬 | 支払額の75%だけ報酬給与額として集計 (旅費交通費も含まれる) |
(3) 純支払利子
「支払利子」から「受取利子」を控除した金額です(マイナスの場合はゼロ)。
含まれる | 含まれない | |
---|---|---|
支払利子 | ● 借入金・社債利息 ● 手形割引料 | ● 売上割引 ● ファクタリング費用 ● 延滞税 |
受取利子 | ● 預金・貸付金・有価証券利息 ● 還付加算金 | 仕入割引 |
資産で計上した「支払利息」等も含まれます。。
(4) 純支払賃借料
「支払賃借料」から「受取賃借料」を控除した金額です(マイナスの場合はゼロ)。
ただし、1か月以上の契約等のものに限定されます。
含まれる | 含まれない | |
---|---|---|
純支払賃借料 | ● 土地・建物の賃借料 ● 荷物保管料 ● 出向先法人が負担する社宅家賃負担金 ● 賃貸借処理のリース料 | ● 時間貸しの駐車場収入 ● 契約で明確に区分されている共益費(光熱費等) |
(5) 雇用安定控除
雇用(報酬等)に対する影響に配慮して、報酬の割合が多い会社については、一定の「雇用安定控除」が認められています。「収益配分額」のうち、「報酬給与額」の占める割合が70%超の場合、付加価値割から雇用安定控除額を控除できます。
控除額は以下の式で算定します。
雇用安定控除額 = 報酬給与額 - 収益配分額 × 70%(マイナスの場合はゼロ)
4. 中間申告
外形標準課税対象法人は、法人税で中間申告義務のない法人でも、事業年度が6月を超える場合には、必ず中間申告義務があります。
外形標準課税適用有無の判定は、中間期間末日時点で1億円を超えていれば、必ず中間申告(予定申告)の義務があります。また、「前事業年度末」と「当中間事業年度末」で、外形標準課税の適用状況が異なる場合は、以下のように「中間申告の有無」を判定します。
前事業年度末 | 当中間 事業年度末 | 中間申告義務の判定 |
---|---|---|
外形対象 | 外形対象外 | 法人税の中間申告義務の有無により判定(法72 条の26⑧、⑨)。予定申告の場合は、前事業年度の所得割額ではなく、事業税額の合計額をもとに計算した金額を申告納付。 |
外形対象外 | 外形対象 | 中間時点で外形課税対象になる場合、中間申告納付の義務あり。ただし、予定申告の場合で、前事業年度が欠損等により事業税額がゼロの場合は、結果的に中間申告納税額はゼロ(法72条の26①、⑧)。 |
5. 具体例
● 兵庫県の会社。資本金の額 200,000千円(=資本金等の額とする)。
● 報酬給与 50,000千円。
● 単年度損益 △20,000千円(=繰越欠損金はなく、所得と一致しているものとする)。
● 純支払利子・純支払賃借料の内訳は以下とする。リース料は「賃貸借処理」を採用。
支払 | 受取 | 差引 | |||
---|---|---|---|---|---|
純支払利子 | 支払利息 | 10,000 | 受取利息 | 2,000 | 8,000 |
純支払賃借料 | 支払リース料 | 30,000 | 受取賃借料 | 35,000 | △5,000 |
⇒「純支払利子」は8,000千円、「純支払賃借料」はマイナスのため、ゼロ。
(1) 付加価値割の計算
項目 | 金額(千円) | |
---|---|---|
① | 報酬給与額 | 50,000 |
② | 純支払利子 | 8,000 |
③ | 純支払賃借料 | 0 |
④ | 収益配分額(①~③合計) | 58,000 |
⑤ | 単年度損益 | △20,000 |
⑥ | 付加価値割額(④+⑤) | 38,000 |
⑦ | 雇用安定控除額(①-④×70%)(※) | 9,400 |
⑧ | 課税標準となる付加価値割額(⑥-⑦) | 28,600 |
(※)収益配分額(④=58,000)のうち報酬給与額(①=50,000)の占める割合は、
50,000÷58,000 = 86.2% > 70%を超えるため、⑦雇用安定控除の適用が可能。
(2) 法人事業税(外形標準課税)の計算
納税額 | 計算 | |
---|---|---|
所得割 | 0 | 単年度所得マイナスのため |
付加価値割 | 360 | 28,600×1.26% |
資本割 | 1,050 | 200,000×0,525% |
合計 | 1,410 |
なお、単年度所得マイナスのため、特別法人事業税(国税)も0になります。
(3) 結論
外形標準課税は、赤字の場合でも、「資本割」や「付加価値割」が課税されます。
6. 令和7年4月1日~の改正
令和7年4月1日以後開始事業年度より、以下の改正があります。
改正前 | 改正後 | 当事業年度終了の日における資本金の額等が 1億円超の法人 | 下記の、(1)(2)いずれかの要件を満たす (1) 当事業年度終了日の、資本金の額等が1億円超の法人 (2) 次の①~③すべてを満たす法人 ① 前事業年度終了日の、資本金の額等が1億円超の法人 ② 当事業年度終了日の、資本金の額等が1億円以下の法人 ③ 当事業年度終了日の、資本金+資本剰余金合計が10億円超の法人 |
---|
資本金の額等=資本金の額又は出資金の額
上記「改正後の取扱い」を簡単にまとめると、以下の通りです。
(1) 原則、現行基準維持
外形標準課税の対象法人については、現行基準の「資本金1億円超」はそのまま維持。
(2) 前年以前に外形標準課税適用法人だった法人の改正
前事業年度末に外形標準課税の対象だった法人のうち、
【当該事業年度末に】
①資本金の額等が1億円以下かつ、②資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合、外形標準課税の対象。
(上記(2)②③)
実態が変わらないにも関わらず、外形標準課税を免れるために、資本金の減資を行い資本剰余金に振り替えるケースが多かったため、今回の改正に至っています。
2026年3月期決算からの適用となります。
7. 参照URL
【東京都 外形標準課税に関するQ&A】
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/info/gaikeiqa.html
【東京都・外形標準課税の概要】
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/info/gaikei-01.html
【兵庫県 税率】
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk22/pa04_000000008.html
8. YouTube
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