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Q156【個別貸倒引当金】貸倒損失との関係は?一括評価金銭債権との違い/要件・50%損金計上できる場合は?
最終更新日:2023/06/2337119view
貸倒引当金とは、売掛先等の債権につき、将来の回収不能に備えて、前もって計上しておく費用項目です。
税務上の「貸倒引当金」には、大きく2種類あり、①「正常な債権」(一括評価金銭債権)に対するものと②将来の「回収可能性に懸念が生じている債権」(個別評価金銭債権)に対するものに区分されます。
今回は、このうち②、「個別評価金銭債権」(個別貸倒引当金)の内容や、貸倒損失等との関係につき解説します。
目次
1. 個別貸倒引当金が計上できる会社は?
個別貸倒引当金は、すべての会社等で計上できるわけではありません。
設定できる主体は、概ね以下の法人となります(法52条、法施令96、規25の4の2)。
● 資本金等の額が1億円以下の中小法人等(資本金5億円以上の大法人の100%子会社等は除く)
● 公益法人等・協同組合等・人格のない社団等、個人事業主
● 銀行・保険会社等の金融機関、リース債権を有する法人等
2. 種類は3種類
(1) 計上できる対象債権・金額は?
売掛金・受取手形・未収入金・貸付金のほか、保証金や前渡金等も対象となります(法52条)。一括評価金銭債権の場合は、保証金や前渡金は貸倒引当金の計上ができませんので、対象範囲は広くなります。
(2) 種類は3種類
個別評価金銭債権に対する貸倒引当金は、大きく下記の3種類に区分され、それぞれ「貸倒引当金の計上額」が定められています(外国政府等に対する債権は省略)。なお、貸倒引当金計上額は、実質的に債権と認められない部分の金額(=相殺可能な金額など)や、担保・保証実行による回収見込額は、除かれます。
種類 | 内容 | 貸倒引当金計上額 | |
---|---|---|---|
(1) | 法律基準による債権 (長期棚上げ債権) | ● 更生計画認可の決定(会社更生法) ● 再生計画認可の決定(民事再生法) ● 特別清算に係る協定の認可の決定(会社法) ● 破産手続きにおける債権者集会の協議決定 | 金銭債権額-5年以内弁済予定金額(※) |
(2) | 実質基準による債権 | 債務超過等により金銭債権の一部が回収できない場合 ● 債務超過の状態が相当期間(おおむね1年以上)経過し、かつ事業の好転の見通しがないこと(法基通11-2-6) ● 災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由 | 金銭債権額-取立見込みがある金額 |
(3) | 形式基準による債権 | ● 更正手続開始の申立て(会社更生法) ● 再生手続開始の申立て(民事再生法) ● 破産手続き開始の申立て(破産法) ● 特別清算開始の申立て(会社法) ● 手形交換所による取引停止処分 (半年で不渡2回出した場合) | 金銭債権額×50% |
(※)法令の規定等により債権が切り捨てられた部分は、「貸倒損失」の計上が可能です。
3. 個別貸倒引当金の要件
(1) 要件
● 事実があった年度に貸倒引当金として「損金経理」(別表4,5で毎年加算、減算認容)
● 別表11(1)「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」添付
● 事実を証明できる一定書類(法施規25条の4)を保存
(2) 過去の個別引当計上漏れを、その後の年度で計上可能か?
貸倒損失の場合は、回収不能が明らかになった事業年度において計上しないと、その後の年度での損金算入は認められません(法基通9-6-1,9-6-2)。一方、個別貸倒引当金計上漏れの場合は、当期においても、過去からの状況と変更がなければ、損金経理を前提に、後日の計上は可能と考えられています(法人税法52条)。
なお、過去の事業年度に「損金経理」はしていませんので、遡って「更正請求」はできません。
4. 貸倒損失との関係
「個別貸倒引当金」と「貸倒損失」の関係を、上記の3区分ごとにまとめると、以下の通りとなります。
(1) | 法律基準による債権 | 法令の規定等により債権が切り捨てられた部分は、貸倒損失の計上が可能です。例えば、債権者集会等で債権切捨70%、残30%は10年返済と決まった場合、切捨額70%は「貸倒損失」を計上し、残30%のうち、5年内弁済予定金額を除いた額は、個別貸倒引当金を計上します。 |
---|---|---|
(2) | 実質基準による債権 | 債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できない場合は、「貸倒損失」を計上しますが、一部が回収できない場合は、個別貸倒引当金を計上します。 |
(3) | 形式基準による債権 | 会社更生法等による開始の「申立て」時点で、形式基準による「個別貸倒引当金」の計上対象となり、認可や協議決定時点で、上記(1)「法律基準による債権」に変更します。 (1)に変更後、債権切捨部分は貸倒損失を計上し、5年内弁済予定金額を除いた額は、(1)法律基準による「個別貸倒引当金」を計上します。 通常は、この時点で、当初(3)形式基準で設定した貸倒引当金の金額も修正します。 |
5. 実務上の判断
個別貸倒引当金の3区分のうち、(1)(3)は、決定書、申請書、取引停止日などで明確に判断できるため、実務上、あまり迷うことはありません。
しかし、(2)は、要件が明確でなく、実務上は非常に使いにくく、あまり活用されていないのが現状だと思います。
債務超過かどうか?を把握するのは、一般の債権者だと難しいですし、法的に何らかの事実が発生しているわけではないため、根拠資料の整備が非常に困難です。例えば、相手先の会社の株主の立場などで、決算書などが入手できるのであれば、債務超過の状況を把握できる場合もあるかもしれません。
単純に、噂などで、相手の資金繰りが悪化しているだけの状況では、個別貸倒引当金は計上できない点、ご留意ください。
6. 一括評価金銭債権の貸倒引当金との関係
中小法人等では、上記の「個別貸倒引当金」の他、正常債権については法定繰入率・貸倒実績率による「一括評価貸倒引当金」の計上が認められています。
ただし、あくまで、一括評価金銭債権は正常債権が対象ですので、個別評価の対象となった債権は、一括金銭債権の対象から外れます。
また、個別評価金銭債権は、取引先ごとにグルーピングされます。
例えば、A社に対する売掛金が個別評価金銭債権となった場合、A社に対する貸付金や保証金も個別評価債権となりますので、結果的に、A社に対する一括評価金銭債権はゼロとなります。
したがって、この場合、A社の貸付金について、一括評価貸倒引当金の計上はできません。
7. 参照URL
(個別評価金銭債権に係る貸倒引当金)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/11/11_02_02.htm
(法人税法施行令96条)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340CO0000000097#134
(No.5500 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5500.htm
8. YouTube
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