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Q164 賃借物件入居時の「敷金・敷引・礼金」/ 退去時の「原状回復費用・違約金」にかかる消費税の取扱い

最終更新日:2023/11/17

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Q164 賃借物件退去時の「原状回復費用」等にかかる消費税の取扱い

この記事は税理士/濱田隆祐により執筆されました。

公認会計士・税理士:濱田隆祐(はまだりゅうすけ)

濱田会計事務所の代表税理士
近畿税理士会 神戸支部:登録番号121899
日本公認会計士協会 兵庫会:登録番号17074
兵庫県行政書士会:登録番号19300373
1973年生まれ、大阪府豊中市出身
あずさ監査法人出身
クレアビズコンサルティング株式会社:代表取締役
YouTubeチャンネル:濱田会計事務所のちょっとお得な税金の豆知識
相続専門サイト:御影みらい相続センター

賃借物件入居時に、「敷金・敷引・礼金」を支払う場合もあると思います。
また、賃借物件から退去する際、家主から「原状回復費用」や「違約金」などの諸費用を請求される場合があります。

これらのついての消費税課税関係は、「事業用」か「居住用」かで消費税課税判断が分かれます。
 
今回は、賃貸物件入居・退去時の「諸費用」に関する「消費税課税関係」につきまとめます。

 

1. 入居時の敷金・敷引・礼金の消費税区分

(1) 敷金

入居時に支払う「敷金」は、将来退去の際に返金されますので、単なる「預け金」、対価性がありませんので「消費税不課税取引」となります。「敷金」についての消費税課税判断は、事業用、居住用共通となります。
 

(2) 敷引・礼金

入居時に支払う礼金・敷引は、「賃貸借契約を締結した」という「役務提供」に対して支払われるものと取り扱われます。
したがって、「対価性がある」ということになり、消費税の課税判断は、「家賃」と同様の判断となります。
事業用、居住用で消費税課税区分が異なります。以下の通りです。家賃の消費税判断については、Q136をご参照ください。

事業用課税
居住用原則非課税

なお、法人税・所得税上は、税務上の繰延資産(自己が便益を受けるために支出する費用)として、原則5年で償却を行います(契約期間5年未満で更新時に権利金を支払う場合は、その賃借期間)。

 

 

2. 退去時の原状回復費用の消費税課税区分

(1) 原状回復費用の消費税区分

賃借人が退去する際に、保証金(敷金)の中から原状回復工事の費用相当額を支払う(相殺される)場合があります。

賃借人には「原状回復義務」がありますので、本来は賃借人が原状回復のうえ、返却する必要があります。
しかし、実務上は、賃貸人が原状回復工事を行ったうえで、工事代金等を賃借人に請求するケースが一般的です。
 

つまり、本来は賃借人が行うべき原状回復工事を、賃貸人が代わりに行うものですので、賃貸人⇒賃借人に対する「役務提供」の対価として「消費税課税対象」となります。
 

この「原状回復費用」は、「家賃」とは性格が異なりますので、たとえ居住用であっても、消費税非課税取引となる「住宅家賃」の取扱いはなく「課税取引」となります。
 

(2) 原状回復義務とは?

なお、「原状回復義務」とは、裁判例では、賃借人の故意・過失等による劣化部分をさし、通常の生活で生じた自然消耗等による劣化部分は「原状回復義務」には含まれません
 

賃貸物件の原状回復義務とは…
賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること(原状回復ガイドラインより、民法621条)
● 「故意・過失」による劣化部分・・上記の原状回復費用に含まれる(賃借人負担)
● 「通常の生活生じた自然損耗や、経年劣化」部分 ⇒上記の原状回復義務には含まれない(賃貸人負担)

 

3. 違約金の消費税区分

賃貸借契約を中途解約する場合や、契約終了後退去しない等の理由で、家主から「違約金」を請求される場合があります。
こういった「違約金」には、消費税が課税されるのでしょうか?

消費税上、損害賠償的な支払は「対価性」がなく、消費税不課税取引となりますので、これらの違約金が「損害賠償」的な支払となるのか?という論点です。

結論的には、「違約金」という名称に関わらず、実質内容で判定します。

 

(1) 中途解約する場合の「違約金」

賃貸借契約期間終了前に解約する場合、「違約金」として数か月分の家賃を請求される場合があります。
この「違約金」は、中途解約に伴い生じる「逸失利益」を補てんするために支払うもの=損害賠償金ですので「消費税不課税取引」となります。事業用、居住用共通となります。

 

(2) 割増賃借料・明渡遅延にともなう「違約金」の消費税課税区分

賃貸借契約期間終了後も賃借人が立ち退かない場合、「割増賃金」を請求される場合があります。
この「割増賃借料」の内容は、「契約期間延長による建物賃貸にかかる対価」であり、違約金とは異なります。
明渡遅延にともなう「違約金」も、たとえ名称が「違約金」でも、実質的には「建物賃貸にかかる対価」となります。
 

したがって、「対価性がある」ということになり、消費税の課税判断は、「家賃」と同様の判断となります。事業用の場合は「消費税課税」、居住用は原則「消費税非課税取引」となります(消基通5-2-5)。

事業用課税
居住用原則非課税

4. 居住用賃貸物件入居時・退去時に支払う費用の消費税区分まとめ

居住用賃貸不動産に関する支出は、原則的に非課税となりますが、課税取引となるものもあります。
参考に、以下にまとめておきます。

 

非課税家賃・共益費・管理費、礼金敷金、保証協会保証料、火災保険・地震保険料、違約金(割増賃料も含む)
課税仲介手数料、金融機関融資手数料、登記手数料、原状回復費用、リフォーム費用・鍵交換・ハウスクリーニング費用等

なお、居住用賃貸建物購入にかかる消費税は、令和2年の改正により、消費税仕入税額控除ができなくなりました。詳しくは、Q167をご参照ください。

 

5. ご参考~原状回復義務の内容に「通常消耗」が含まれる場合の家主側の取扱い~

住居等(居住用)で賃貸している場合、家主が支払った原状回復義務につき、「消費税個別対応方式の3区分」に影響がある場合があります(事務所用等の場合は、影響はありません)。

家主が負担した原状回復費用のうち、「通常消耗部分」については、特段の契約がなければ「家主側」に負担義務があり、賃借人には負担義務がありません。
したがって、家主が負担した「通常消耗部分」は、毎月の受取家賃と対価関係にあります。
一方で、「特別消耗部分」は、賃借人に負担義務がありますので、退去時の「原状回復請求権」と対価関係にあります。
したがって、「原状回復費用」のうち「通常消耗部分」と「特別消耗部分」が明確に区分されている場合、消費税区分は以下となります(税務通信 No3568)。

通常消耗部分非課税売上対応課税仕入通常消耗部分は賃貸人負担 ⇒毎月の家賃と対価関係
特別消耗部分課税売上対応課税仕入特別消耗部分は賃借人負担⇒退去時の原状回復役務の提供と対価関係(※)

(※)退去時に、原状回復費用充当分として、敷金の返還をしない金額は、家主側は「課税売上」で認識します(原状回復義務の役務提供課税売上)。

 

ただし、現実的には、原状回復で要した費用のうち、通常消耗部分と特別消耗部分が区別されている請求書は少ないと思われますので、実務上はあまり影響はないかなと思います。
 

6. 参照URL

(建物賃貸借契約の違約金など)
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/6261.htm

(建物賃貸借に係る保証金から差し引く原状回復工事費用)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/06.htm

(家賃・共益費・管理費の消費税区分)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/09/02.htm

 

7. YouTube

 

YouTubeで分かる「賃借物件・消費税の取扱い」
 

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