税金の豆知識
Q12 人間ドック費用・健康診断費用等が福利厚生費となる条件/医療費控除や消費税との関係は?
最終更新日:2022/01/2896896view
従業員の福利厚生の一環として、会社が「健康診断費用」や「人間ドック費用」を負担する場合もありますね。
また、最近は、新型コロナウィルスの関連で、「PCR検査」を受ける機会も増えているかと思います。
こういった「費用」については、「一定要件」を満たした場合は「福利厚生費」として経費処理が可能です。
「福利厚生費」として経費処理が可能な場合は、従業員側にも所得税が課税されません。
今回は、健康診断・人間ドック費用・PCR検査費用を会社が負担した場合の法人税上の取扱いや、消費税との関係、フリーランスや外注先分を負担した場合などの取扱いをまとめます。
目次
1.経済的利益に関する原則的な取扱い
会社から従業員への「金員等」の支給は、原則として、「経済的利益」の供与となり、給与課税されます。
つまり、原則として、こういった「金員等の支給」には、従業員側に「所得税課税」が行われます。
2.人間ドック・健康診断の場合
ただし、福利厚生の一環として、社員を対象とした「健康診断費用」や「人間ドック」による検診費用を会社が負担した場合、下記要件を満たす限り、「福利厚生費」で処理することが可能です。
インフルエンザ予防接種なども同様の扱いとなります。
全社員に受診機会を与えていること | ●役員等、「特定の地位」にある人だけを対象として会社が費用負担する場合は、「給与課税」の対象になります。 ●健康管理を必要とする「一定年齢以上の希望者を対象」とする場合は、福利厚生費で処理可能です。例えば、全社員のうち「40歳以上の希望者」に対する人間ドック費用を負担する場合は福利厚生費として処理可能です。 |
---|---|
検診を受けた社員全員分の 費用を会社が負担すること | ●健康診断や人間ドック費用は、会社から直接診療機関への支払が必要です。 負担部分を従業員に直接「金銭」で支給した場合は、給与課税されます。例えば、業務上やむを得ず指定日に受診できなかった社員に対し、後日、「人間ドック費用相当」の現金を支給する場合も認められません。 |
健康管理上必要とされる、 常識の範囲内の費用であること | ●一般的に実施されている2日程度の人間ドック検診費用(著しく高額ではないもの)であれば、「福利厚生費」として処理が可能です。 ●一般的に検診費用が数十万円程度必要になる「PET(がん)検診」は、著しく高額であるとみなされる可能性があります。 |
年齢や勤務年齢、役職等に応じた「全社員」を対象とする健康診断の規定を作り、税務調査時に「給与課税」されないような対策が望まれます。
なお、受診機会を与えていれば、現実的に受診をしなかった従業員がいる場合でも課税関係には影響しないようです。したがって、例えば、「受診率」がたとえ半分以下であっても「福利厚生費」として認められるようです(税務通信 NO3640)。この点に関しては、社員旅行が「福利厚生費」で認められる「50%以上の参加」の要件とは、取扱いが大きく異なります。
3.PCR検査を受けた場合の取扱いは?
昨今は、海外出張の際に「陰性証明書」が要求されるケースがあり、業務上「PCR検査」が必要なケースも少なくありません。こういった「PCR検査費用」を会社が負担した場合、福利厚生費は可能でしょうか?
結論的には、従業員の「業務を遂行する上で必要な場合」は給与課税されません。
海外出張の際に受検が必要な場合や、社内クラスターの予防的な意味合いで、念のため検査しておくケースもあるため、そういった場合は「業務の遂行上」必要といえます。
上記の取扱いは、「陰性証明書の発行費用」も同様のようです(税務通信 NO3634)。
。
人間ドック等は原則として「従業員全員を対象」とする必要があったのに対し、PCR検査の場合は、「業務の遂行上」必要な場合であれば、一部従業員の場合でも「福利厚生費」処理が可能ということになるようです。
4.消費税は「課税」?
消費税法第6条の規定により、健康保険法等に基づく「社会保険医療の給付等に係る資産の譲渡等」は非課税取引とされています。
しかし、健康保険等の対象となる医療、診療代などが「非課税」扱いとなるだけですので、健康診断費用や人間ドック費用、PCR検査費用は、上記の「非課税取引」には含まれていません。
したがって、これらの取引は消費税「課税取引」となります。
人間ドック費用 | 消費税課税 |
---|---|
健康診断費用 | |
PCR検査費用 |
(No.6201 非課税となる取引)
(9) 社会保険医療の給付等
健康保険法、国民健康保険法などによる医療、労災保険、自賠責保険の対象となる医療など。
ただし、美容整形や差額ベッドの料金及び市販されている医薬品を購入した場合は非課税取引に当たりません。
5.フリーランスや一人社長の場合は?
そもそも「福利厚生費」は、従業員へ対しての非金銭報酬であり、個人事業主や、一人社長自身への支払は「福利厚生費」に該当しません。したがって、個人事業主や一人社長自身が健康診断や人間ドックを受けた場合の費用は、そもそも「経費」に計上することはできません。
同様に、青色事業専従者に対する支払も「個人事業主」への支払と同様の扱いになりますので、経費計上することができません。
「フリーランス・一人社長の福利厚生費」は、Q79でまとめています。ご参照ください。
6.外注先の健康診断費用を負担した場合は?
例えば、元請の要請など業務の都合上、「健康診断書等」が必要な場合など、外注先の健康診断費用を負担せざるを得ないような場合は、「寄付金認定」されず、「外注費等」で経費処理が可能な余地はあると思われます。
7.ご参考~医療費控除との関係~
参考に、個人が支払った人間ドック・健康診断費用・PCR検査費用と「医療費控除」との関係を記載します。
(1) 人間ドック費用・健康診断費用
個人が支払った健康診断や人間ドック費用は「医療費控除」の対象とはなりません。医療費控除は、治療的な内容のものが対象となりますので、これらの費用は「予防」としての検査に該当しますので。
ただし、健康診断等の結果、重大な疾病が発見され、かつ、その診断等に引き続きその疾病の治療を行った場合には、「医療費控除」の対象になります。
(2) PCR検査は?(新型コロナFAQ問12-2)
医師等の判断で受けたPCR検査の費用は医療費控除の対象となりますが(自己負担部分のみ),感染していないことを明らかにするために、単に自己の判断で受けたPCR検査の費用は,、医療費控除の対象になりません。
ただし、自己の判断で受けたPCR検査の結果、「陽性」であることが判明し、引き続き治療を行った場合には、その検査は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができますので、その場合の検査費用は、「医療費控除」の対象となります
「抗原検査」と「抗体検査」に係る医療費控除についても、上記と同様の判断のようです(税務通信 NO 3631)
8.参照URL
人間ドックの費用負担https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/03.htm
医療費控除の対象となる医療費https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122_qa.htm
9.YouTube
YouTubeで分かる「人間ドック費用が福利厚生費となる条件」