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Q33【判例付】役員退職金の限度額は?分割払OK?分掌変更や役員退職慰労金制度廃止の取扱い

最終更新日:2022/01/28

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役員退職金支給の際の留意点は?

この記事は税理士/濱田隆祐により執筆されました。

公認会計士・税理士:濱田隆祐(はまだりゅうすけ)

濱田会計事務所の代表税理士
近畿税理士会 神戸支部:登録番号121899
日本公認会計士協会 兵庫会:登録番号17074
兵庫県行政書士会:登録番号19300373
1973年生まれ、大阪府豊中市出身
あずさ監査法人出身
クレアビズコンサルティング株式会社:代表取締役
YouTubeチャンネル:濱田会計事務所のちょっとお得な税金の豆知識
相続専門サイト:御影みらい相続センター

退職金は、給与や賞与と比較して、税法上「非常に有利」な取り扱いとなっています。したがって、事業承継の一環として、役員退職金の支給により、自社株式の評価を下げる手段としても活用されています。

退職金にかかる個人側の所得税計算についてはQ5ご参照下さい。

 

1.退職金の限度額は?

従業員の退職金は全額損金算入が可能ですが、役員退職金については、「不相当に高額とされる部分」の金額は、損金に算入されません
例えば、同業種同規模の会社の支給状況や、法人業務従事期間、事情等を勘案して妥当な水準を決定します。実務的には、「功績倍率法」が用いられることが多いです。

「功績倍率」を用いた場合の退職金の計算式は、以下となります。

最終報酬月額×勤務年数×功績倍率(代表取締役なら2~3倍程度が目安)

功績倍率は、一定集団を用いた平均値等、根拠ある倍率を用いる必要があります。

なお、最終報酬月額が0の場合も、支給できないわけではありません。
「功績倍率法」を使わず、1年当たりの平均退職金×勤続年数等を用いて支給されることもあります。

 

2.支給手続・損金算入時期・分割払はOK?

(1)支給手続

取締役に対する報酬の一部とされ、「株主総会決議」が必要となります。
ただし、一般的には、株主総会で総額のみを決議し、各人別の金額や支給時期、方法等は「取締役会に一任」する旨の決議を行うのが一般的です。

 

(2)損金算入時期は?
原則支給額確定の株主総会決議日(or方法等一任を受けた取締役会決議日)の属する事業年度。
例外実際支給日の属する事業年度において損金経理をした日

ただし、例外的に、「退職年金制度による退職年金」は、「年金を支給すべき事業年度」が損金算入時期となりますので、ご留意ください。
 

(3)分割支給の場合は?

役員退職金は、支給確定年度に「一括費用計上」が可能ですし、複数年度に分割支給する場合には、それぞれの年度の経費とすることも可能です(法基通 9-2-28但書)。
 

ただし、支給確定年度に「一括損金計上」する場合で、支給する分割期間があまりに長いと、「退職年金」と同視され、損金が否認されるケースがあるようです。
一般的に「役員退職金を分割支給」する場合は、以下の要件を満たすことが必要とされています。

株主総会等で分割支給が決議され、議事録に記載されている
分割支給の合理的な理由(資金繰り等)
分割期間が長期間でないこと

分割期間につき、具体的な基準はありませんが、概ね「3年~5年程度が目安」だといわれています。
 

3.役員退職慰労金制度を廃止した場合は?

最近は、株主総会決議により「役員退職慰労金制度」を廃止する会社も多くあります。
ただし、「制度を廃止」したとしても、役員としては継続する場合がほとんどです。
そこで、一旦、「役員就任日から廃止日までの期間」の職務執行対価を「役員退職慰労金」として支払う場合、「退職所得」として取り扱われるのか?という疑問が生じます。「打切支給」と呼ばれています。
 

(1) 役員退職慰労金の性格

役員退職慰労金とは、役員等の「任期満了or辞任等」により退任した場合に支払われるものであり、「退職所得」とされるためには、役員を「退職した事実」が必要となります。つまり「役員を退職」した事実がなければ、退職金請求権が発生することはありません。
 

(2) 税務上の取扱い

したがって、役員退職慰労金制度を廃止したとしても、その時点で「役員を退職」した事実がない以上、退職金支給の合理的な理由がありませんので、この時点での「打切支給分」は、原則として、役員賞与と取り扱われ、「退職所得」とはなりません
(法法第34条、法基通9-2-35、所法第30条、所基通30-2、所法28条第1項)。
 

4.役員の「分掌変更」の場合の退職金の取扱い

例えば、代表取締役から平取締役等、役員の地位が変更される場合に支給する「退職金」は損金算入できるのか?という論点です。

(1)3つの形式基準

この論点は・・過去から裁判でも非常に争われている論点です。
役員の職務内容が激変して、実質的に「退職したと同様の事情にある場合」は退職金として取り扱うことができます。ただし、退職事実に基づく支払ではないため、原則として、「実際支払が行われたものに限って」退職給与とすることが可能です(原則「未払計上」は×)
 
国税庁では、分掌変更後において、その「法人の経営上主要な地位を占めていない」ことを大前提に、以下の3つのケースが例示されています。

「常勤役員」が「非常勤役員」になったこと(代表権ある場合は×)
「取締役」が「監査役」になったこと(大株主は除く)
 分掌変更後の役員給与がおおむね50%以上減少したこと
(2)実質判断が求められる

ただし、過去の裁判例を見る限り、上記は「例示要件」を示したにすぎず、形式的に要件を満たすだけでなく、実態が伴っていないと×です

(例)
● 社長が非常勤取締役に分掌変更し、役員給与も50%以上減額
しかし、100%の株式は変わらず保有、役員会に出席して会社の経営参画
実質的な退職とは認められません。

 

(3)否認されている判例

( 判例では、以下の状況をもとに、役員退職金が否認されているケースがあります)
 

新しい代表者が、会社の状況を把握できていなかった
主要な取引先に、代表者の交代事実を知らせていなかった
給与減額が不自然(一度増額してから減額)
その事業年度に、満期保険金等による多額の雑収入があった
その他、社長の退職が名目的なものに過ぎないような状況がある
(4)分掌変更での分割払は損金認められるか?

分掌変更の場合は、退職事実に起因して支払われるものではないため、原則として、実際支払が行われたものに限って損金算入が可能です(原則未払分は損金算入不可)。
ただし,資金繰り等、「経営上合理的な理由」がある場合には、例外的に未払分についても「損金算入」が可能とされています。

現に、分割支給退職金につき、「損金算入」が認められている判例があります。また、この判例では、「複数年度にまたがって」損金計上すること自体もOKという判決となっています
(平成27年2月26日東京地裁)。
 

5.使用人⇒執行役員、執行役員⇒取締役の場合は?

(1)原則

執行役員は、会社法・法人税法上の役員ではありません
執行役員関係の「分掌変更時」に、退職金を支給した場合の取扱いは、原則として以下となります。

使用人⇒執行役員法令上の地位に変動はありませんので、原則として「給与」扱いとなります。
執行役員⇒取締役法令上の地位に明確な変動がありますので、原則として「退職所得」扱いとなります。
(2)例外

ただし、形式的な判定だけでなく、労働条件等の重要な変更等、特別の事実関係を把握して、執行役員就任時に「退職所得」扱いができる場合があります(法30-2-2)
 

例えば、使用人⇒執行役員就任時に「就任前の勤続期間に係る退職手当等」を支給した場合でも、例えば、以下の場合は「退職手当等」に該当すると例示されています。
 

執行役員との契約が委任契約等(雇用契約等ではない)で、かつ、執行役員退任後は使用人としての再雇用が保障されていないもの
執行役員に対する報酬、福利厚生等が役員に準じたものであり、任務に反する行為等により使用者に生じた損害を賠償する責任がある場合

6.退職金の所得税計算・源泉所得税

退職金については、「退職所得控除」や課税対象算定時に「1/2」できる規定があり、所得税額はかなり安くなります。詳しくは、Q5ご参照下さい。

7.参照URL

(退職金を受け取った時)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/shoto308.htm

(役員の退職金の損金算入時期)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm

(分掌変更等の打切支給)https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/70/01/index.htm

(役員昇格・分掌)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5203.htm

(使用人から執行役員への就任退職手当等)https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/04/08.htm

 

8.YouTube

 
YouTubeで分かる「役員退職金の限度額」
 

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