税金の豆知識
Q44【時効は?】従業員や外注先等から源泉所得税を徴収漏れしていた場合の実務上の対応は?
最終更新日:2022/01/28113981view
「源泉所得税」は、本来「従業員等本人」が直接支払うべき所得税を、事業者が従業員給与等から天引きし、代わりに税務署に支払うものです。
しかし・・従業員給与等から「源泉徴収漏れ」する場合もあるかもしれません。
また、「計算ミス」により本来の税額を徴収できていなかった場合も同様です。
こういった場合、事業主はどういった対応をすべきでしょうか?
従業員が既に退職していて、「追加徴収」できない場合もあるかもしれません。
今回は、「源泉所得税を徴収漏れ」していた場合の対応をまとめます。
結構めんどうな処理ですので、できれば、後からでも返還してもらうことをおすすめします。
目次
1.税務署や従業員との関係は?
(1)税務署との関係は?
事業主には源泉徴収義務があり、原則翌月10日までに税務署に支払わなければいけません。
この、「事業主」と「税務署」との関係は、従業員等から取り忘れていた場合も変わることはありません。
したがって、期日までに支払わない場合、督促状の送付や、不納付加算税・延滞税のペナルティが追徴課税されます。
(2)従業員との関係は?
では、従業員等から「源泉所得税」を取り忘れていた場合、「従業員との関係」はどうでしょうか?
会社は、従業員等に追加請求できますが、現実的には退職等などの事情により徴収できない場合もあります。
この場合の対応としては、①従業員等から「後日徴収」する方法②徴収せず会社が負担する方法の2種類が考えられます。
2. 従業員から後日回収・徴収する対応の場合
(例題)
● 給与200,000円の従業員1人
●給与200,000円の源泉所得税は、4,770円とします(扶養ゼロ)。
●上記給与から本来徴収すべき源泉所得税を、徴収し忘れ、税務署にも支払っていなかった。
● 不納付加算税&延滞税1,000円とします。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
気づいた時(※) | 未収入金 | 4,770 | 預り金 | 4,770 |
税務署支払時 | 預り金 租税公課 | 4,770 1,000 | 現金 | 5,770 |
後々従業員から徴収時 | 現金 | 4,770 | 未収入金 | 4,770 |
(※)従業員から後々徴収する予定のため、借方は、従業員への「未収入金」、貸方は、本来給料支払時に預かるべき「預り金」となります。
3. 従業員から回収せず、会社が負担する対応は?
(1) 会社負担額は給与扱い
源泉徴収漏れの原因が、会社のミスの場合や、退職後所在がわからなくなった場合などは・・会社が負担するケースもあるかもしれません。
本来徴収すべき「源泉所得税」を会社が負担した場合、負担額は従業員に対する「給与」と取扱われます。つまり・・従業員等に対する「経済的利益」の供与として、追加で「給料」を支払ったとみなされます。
(2) 「追加給与扱い」となる影響
「追加給与扱い」ということは・・この部分にも「源泉徴収」義務が生じることになります。
つまり負担部分は「給料」として法人側の経費に計上可能ですが、この部分につき、さらに「源泉徴収」しないといけないため・・かなりめんどうなことになります。
(3) 計算方法
税法上は、支払った金額を基準として「源泉徴収税額」を再計算します。
具体的には、「追加払」と扱われる給与につき、「税引後手取額」で支払ったものとされ、税引前額面額に「グロスアップ」したうえ、源泉所得税を再計算します。
再計算の結果算定された「源泉所得税額」は、「給与」として計上し、税務署に納付することになります。
(所基通221-1)
(支払者が税額を負担する場合の税額計算)
・・既に支払った金額のうちから当該税額を徴収すべきであったものとし、既に支払った金額を基準として計算する。この場合において、・・請求をしないこととしたときは、当該控除又は請求をしないこととした時においてその納付した税額に相当する金額を税引き手取額により支払ったものとし、その支払ったものとされる金額に対する税額を181~223共-4により計算する。
(法基通 9-5-3 強制徴収等に係る源泉所得税)
・・・所得税法第221条《源泉徴収に係る所得税の徴収》の規定により所得税を徴収された場合において、その徴収された所得税を租税公課等として損金経理をしたときは、その徴収の基礎となった配当、給料等の区分に応じてその追加支払がされたものとする。
4. 会社が負担する場合の具体例(給与)
(例題)
● 給与200,000円の従業員1人
●給与200,000円の源泉所得税は、4,770円とします(扶養ゼロ)。
●上記給与から本来徴収すべき源泉所得税を、徴収し忘れ、税務署にも支払っていなかった。
● 従業員は既に退職しているため、上記源泉所得税は、会社が負担することとなった。
● 不納付加算税&延滞税1,000円とします。
普通に考えると、こうなります・・
従業員給与から天引きしていない場合は「預り金」が計上されていないため、源泉所得税部分を税務署に支払う際には「給与」で処理を行います。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
税務署支払時 | 給与 租税公課 | 4,770 1,000 | 現金 | 5,770 |
(1) 考え方
しかし、税務上の考え方は、既に支払った金額を基準として「源泉所得税額」を再計算します。
●当初支払額200,000円の源泉徴収額は4,770円
⇒4,770円は、従業員に請求しないと決めたときの「従業員への追加給料」(税引後手取額)と考えます。
●上記4,770円を税引前額面にグロスアップします。
⇒従業員が既に退職している場合は、乙欄(3.063%)で税引前金額にグロスアップします。
(2) 具体的計算
4,770円÷(1-0.03063)=4,920円(グロスアップ)
4,920円×3.063%=150円⇒「追加源泉所得税」
したがって、税務署支払額は、4,770円(当初分)+150円(追加分)=4,920円となります。
結果的に、源泉所得税は、当初の4,770円ではなく、150円多い4,920円を支払うことになります。
かなりめんどうな計算です。
(3) 仕訳
上記をもとに、税務署への支払時の仕訳をまとめると、以下のとおりとなります。
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
税務署支払時 | 給与 租税公課 | 4,920 1,000 | 現金 | 5,920 |
5. 外注先等に対する報酬の場合
外注先等への「報酬」に対する「源泉所得税」を会社が負担する場合も、考え方は同じになります。
請求を取りやめた時に、当該報酬・料金の「追加払い」があったとして、「手取り計算(グロスアップ)」により、源泉所得税を再計算します。
(具体例)
● 税理士報酬100,000円(源泉所得税10,210円)
●会社は、源泉所得税10,210円を差し引かずに100,000円全額を支払った
●上記源泉所得税は、会社が負担することになった(消費税は簡便的に無視します)
● 不納付加算税&延滞税1,000円とします。
(1) 具体的計算
10,210円は、「請求しないと決めたときの追加報酬」と考えますので、追加報酬10,210円をグロスアップします。
⇒10,210円÷(1-10.21%)=11,370円(グロスアップ)
11,370円×10.21%=1,160円⇒「追加源泉所得税」
したがって、当初の納税額10,210円+1,160円=11,370円が源泉支払額となります。
(2) 仕訳
仕訳は以下の通り
借方 | 貸方 | |||
---|---|---|---|---|
税務署支払時 | 支払報酬 租税公課 | 11,370 1,000 | 現金 | 12,370 |
なお、上記例では消費税の取扱いは省略していますが、追加払いとみなされる部分は「支払報酬」となりますので、「消費税課税取引」となります。
6.会社が負担する場合の先方への影響
上記の通り、源泉徴収漏れした金額を「会社側で負担」する場合は、給料や報酬を追加で支払った処理が行われますので、「受取側の収入は増える」ことになると思われます。
したがって、源泉徴収票や支払調書に記載する「給与や支払報酬額」は、会社が負担した額も含めて記載することになると思われます。
7. 時効の成立は?実務上の対応は?
(1) 時効の成立は?
源泉所得税の消滅時効は、5年です(不正等の場合は7年)。結構長いですね・・
ただし、例えば、税務署からの督促状や、納税者が申告・税金の一部を納付した場合は、時効が中断され、一からリセットされます。
つまり・・税務署が「徴収のプロ」であることを考えると・・「時効の成立」の可能性は低いと思われます。
国税通則法72条
(国税の徴収権の消滅時効)
第七十二条 国税の徴収を目的とする国の権利は、その国税の法定納期限から五年間行使しないことによつて、時効により消滅する。
(2) 実務上の対応
①対税務署
従業員からの徴収有無にかかわらず、税務署に対しては、気づいた時に支払しておくほうがよさそうです。
②対従業員
源泉所得税の徴収漏れは、後々めんどうなことになるので、必ず毎月確認しましょう!
また、上記のように、源泉所得税を会社が負担する場合は、相当めんどうな計算になります。ですので・・年末調整前なら、従業員から確実に返金してもらったほうがよいと思います。
8.参照URL
(支払者が税額を負担する場合の税額計算)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/39/01.htm
(法人税基本通達9-5-3 強制徴収等に係る源泉所得税)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_05_01.htm
(源泉徴収の対象となるものの支払額が税引手取額で定められている場合の税額の計算)181~223共‐4
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/28/01.htm
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