税金の豆知識

Q57【簡単解説】調整対象固定資産とは?3年縛りの内容/取得による影響は?

最終更新日:2022/01/28

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調整対象固定資産って?

この記事は税理士/濱田隆祐により執筆されました。

公認会計士・税理士:濱田隆祐(はまだりゅうすけ)

濱田会計事務所の代表税理士
近畿税理士会 神戸支部:登録番号121899
日本公認会計士協会 兵庫会:登録番号17074
兵庫県行政書士会:登録番号19300373
1973年生まれ、大阪府豊中市出身
あずさ監査法人出身
クレアビズコンサルティング株式会社:代表取締役
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消費税納税額は、原則として、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて算定します。
支払った消費税を差し引く行為は「仕入税額控除」と呼ばれています。
仕入税額控除は、課税仕入等を行った年度で「一括控除」を行うことが原則です。
しかしながら、固定資産は、通常、長期にわたって使用されることから、購入時の状況だけで「仕入税額控除」を確定させると、その後の実態にそぐわないことがあります。

そこで、一定の固定資産につき、「課税売上割合」や「資産の使用形態」に変動がある場合、当初の「仕入税額控除」の金額を調整する制度、これが「調整対象固定資産」と呼ばれるものです。
今回は、「調整対象固定資産」の内容や、取得した場合の影響等につき、わかりやすく解説します。

 

1.調整対象固定資産って?

固定資産(建物、構築物、機械装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具器具備品など)(※)のうち、一取引単位あたりの取得価額(税抜金額)が100万円以上 のもの。

(※)

● 土地などの「非課税資産」や「棚卸資産」は含まれない。
●賃借権利金、預託金方式のゴルフ会員権、ソフトウェア購入費用、書画、骨董等は含まれる。
●調整対象固定資産に該当するかを判定する際は、当該資産の購入のための引取運賃、荷役費等、事業の用に供するために必要な支払対価の額は含まれない。
●一取引単位とは、例えば、機械及び装置は1台、工具、器具及び備品には1個、1組等、社会通念上「一の効果」を有すると認められる単位ごとに判定する。
 

2.調整対象固定資産を取得した場合の影響

「課税事業者」かつ、「原則課税」で消費税申告を行っている事業者が、課税期間中に「調整対象固定資産」を取得した場合の影響は、大きく下記の2つとなります(免税事業者・簡易課税選択事業者の場合は、今回の論点は関係ありません)
 

(1)仕入税額控除の調整一定の場合、調整対象固定資産の課税仕入等に係る仕入控除税額の調整を行う
(2)3年縛りで免税事業者・簡易課税選択不可調整対象固定資産を取得した課税期間から3年間は課税事業者(原則課税)が強制され、免税事業者・簡易課税制度の選択不可

3. 仕入税額控除を調整する「一定の場合」とは?

下記2つの事実が発生した場合は、調整対象固定資産取得時の「仕入税額控除」の金額を調整します(消費税法33)。
 

事実要件
取得年度とその後3年間の「通算課税売上割合」を比較して
課税売上割合が著しく増減した場合(※)
第3年度の課税期間が「原則課税」の場合
(免税事業者、簡易課税の場合は調整不要)
調整対象固定資産を第3年度末日に保有している場合
(除却、譲渡等で保有していない場合は、調整なし)
取得日から3年以内に使用形態を転用した場合
(課税業務用⇔非課税業務用)
●転用した課税期間が「原則課税」の場合
(免税事業者、簡易課税の場合は調整なし)

(※)課税売上割合が著しく増減した場合の規定は、仕入税額控除が全額控除可能な事業者(課税売上高5億円以下かつ課税売上割合95%以上)も、調整が必要となります。
 

4. 課税売上割合が著しく変動した場合の調整

(1) 調整するケース(著しく変動とは?)

●調整対象固定資産取得時の課税売上割合(A) VS その後3年間の「通算課税売上割合」(B) を比較
   50%以上の変動がある場合⇒著しく変動に該当します。

 

仕入消費税額に加算する場合
(税額が安くなる)
(BーA) ÷ A ≧ 50% の場合。(ただし、B-A≧5%の場合のみ)
仕入消費税額に減算する場合
(税額が高くなる)
(AーB) ÷ A ≧ 50% の場合。(ただし、A-B≧5%の場合のみ)
(2) 調整額

以下の金額を、第3年度の仕入消費税額に加算or減算します。

加算調整対象固定資産消費税額×(B-A)
減算調整対象固定資産消費税額×(A-B)
(3)具体例(課税売上割合が変動した場合)

 ● 事業用建物を2021年3月期に購入 税込8,800万円(消費税800万円)。
 ● 2023年3月期末も、継続して保有しているとします。
 ● 2021年3月期~2023年3月期の課税売上割合は「以下の表」の通り。
 ● いずれの期間も「課税事業者」、「原則課税」で計算しているものとします。

2021/32022/32023/33年合計
課税売上高(税抜)①8,000万円2,000万円2,000万円12,000万円
非課税売上高②2,000万円8,000万円8,000万円18,000万円
売上合計③=①+②10,000万円10,000万円10,000万円30,000万円
課税売上割合(①÷③)80%20%20%40%
(1)調整対象固定資産の判定8,800万円×100/110=8,000万円≧100万円
 ⇒ 調整対象固定資産に該当
(2)2021年3月期の課税売上割合 8,000万円÷10,000万円=80%
(3)2021年~2023年3月期の通算課税売上割合12,000万円÷30,000万円=40%
(4)著しい変動かどうか?の判定(80%ー40%) ÷80% =50% ≧ 50%
かつ、80%-40%≧40%⇒著しい変動に該当!
(5)加算額の計算800万円×(80%-40%)=400万円
⇒2023年3月期の仕入消費税額から減算(=税額が高くなる)

5. 転用した場合の調整

(1) 調整するケース
課税業務用⇒非課税業務用に転用一定額を「転用年」の仕入税額控除から減算
非課税業務用⇒課税業務用に転用一定額を「転用年」の仕入税額控除に加算
(2) 調整額
取得日から1年以内に転用調整対象固定資産にかかる消費税全額
取得日から1年超2年以内に転用調整対象固定資産にかかる消費税の2/3
取得日から2年超3年以内に転用調整対象固定資産にかかる消費税の1/3

6. 3年縛りの背景・留意事項

(1) 3年縛りの背景

もともと、調整対象固定資産の規定は、固定資産は長期にわたって利用されるため、取得時の課税売上割合だけで仕入税額控除を決定してしまうと、その後に課税売上割合が著しく変動した場合などに「実態にそぐわない」ことから設けられた規定です。租税回避防止を目的としたものではありません

しかし・・居住用賃貸マンション業者などを中心に、下記の租税回避スキームが横行しました。こういった業者は、基本的には非課税売上が多いため、免税事業者のケースや、課税事業者でも「仕入税額控除」が少ないことが一般的です。
 

(租税回避スキームの概要)

課税事業者を選択
マンション購入年度に意図的に「課税売上」を計上して課税売上割合を高め、一括比例配分方式の採用により調整対象固定資産を取得した年度に「多額の消費税の還付」を受ける。
3年目に免税事業者or簡易課税事業者を選択することで、3年目に本来行うべき「調整対象固定資産の仕入税額控除の調整」を回避する。

上記の租税回避スキームを防止する趣旨で、平成22年改正により、3年間原則課税が強制され、3年目に調整対象固定資産の仕入税額控除を受けさせる形となりました。
 

なお、令和2年の改正により、居住用賃貸不動産は、入り口段階から「仕入税額控除」自体がができなくなりました。

 

(2) 3年縛りが強制される課税事業者

実は・・3年縛りが強制される事業者は、すべての課税事業者ではありません。
下記のような「課税事業者」を選択した事業者等が対象となります。

対象の課税事業者(消法9⑦、12の2②、12の3③)調整対象固定資産の仕入時期
「課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になった者課税事業者選択強制期間(2年間)
新設法人・特定新規設立法人特例により免税事業者になれない事業者基準期間のない各課税期間
(3) 高額特定資産との違い

高額特定資産の場合も、上記同様の3年縛りの規定がありますが、高額特定資産の場合は、課税事業者になった理由は関係ありません。課税事業者選択届出書の提出により課税事業者となった者だけでなく、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えることにより課税事業者となった者も対象となります。

 

7.参照URL

(課税売上割合が著しく変動したときの調整)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6421.htm

 

(調整対象固定資産の範囲)https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/12/02.htm

 
 

8. YouTube

 
YouTubeで分かる「調整対象固定資産」
 

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