税金の豆知識
Q87【具体例付】消費税課税売上割合の計算方法 輸出売上・非課税売上の内容は?/値引・返品・貸倒等の取扱い
最終更新日:2022/02/0174323view
消費税納税額の計算にあたり、「課税売上割合」という概念が関係します。
聞いたことあるけれど・・どういう場面で使うのか?イメージわかない方もいるかもしれません。
今回は、「消費税納税額の計算方法」をお伝えしたうえで、「課税売上割合」の利用場面、算定式やそれぞれの構成内容につきお伝えします。
なお、簡易課税を採用する場合は、今回の「課税売上割合」の論点はでてきません。
目次
1. 消費税納税額の計算方法
(1) 課税・非課税・不課税取引の区分
消費税は、ビジネス上のすべての取引に「課税」されているわけではありません。
例えば、「給料」や「土地」を売却しても、消費税は課税されません。
つまり・・消費税納税額の計算を行う前提として、まずは、消費税が課税されている取引(課税取引)とそうでない取引を区分しなければいけません
消費税がかかる取引(課税取引)、それ以外(非課税取引・不課税取引)を区分集計しておく必要があります。
(2) 消費税納税額の算定方法
消費税納税額の計算方法は、あくまで消費税が課税されている取引のみです。
消費税が課税されている取引のうち、預かった消費税(課税売上)から支払った消費税(課税仕入)を差し引いて算定します(Q55 参照)。
消費税納税額=預り消費税―支払消費税
(3) 仕入税額控除は制限される場合あり
上記の通り、「消費税納税額」を算定する際には、仕入等で支払った消費税を差し引いて算定します。
この消費税納税額の計算にあたり、仕入等で支払った消費税を控除する行為は「仕入税額控除」と呼ばれています。
しかし、すべての会社で、全額「仕入税額控除」ができるわけではありません。
規模の大きな会社や課税売上割合が低い会社は「仕入税額控除」が制限されています。
例えば、土地の販売だけを行う会社など、非課税売上が大半を占める事業者もあると思います。
こういった「非課税売上」に対応する「課税仕入」を全額控除の対象としてしまうと、消費税納税額が極端に少なくなり実態と即しているとは言えません。
そこで、「非課税売上」の割合が多い事業者は、「課税売上割合」部分のみ仕入税額控除を認めることとしています。
2. 課税売上割合を利用する場面
「課税売上割合」を利用する場面は、大きく、下記3つの場面となります。
(1) 全額仕入税額控除ができるかどうか?を判定する場面
上記の通り、一部の会社は仕入税額控除が制限されます。
仕入税額控除が制限される会社は以下の通りです。
事業者 | 控除できる消費税 | ① | 課税売上高が5億円超、又は課税売上割合が95%未満の事業者 | 一部控除不可 | ② | 上記以外(課税売上高が5億円以下、かつ課税売上割合が95%以上の事業者) | 全額控除可 |
---|
ここでようやく出てきました・・「課税売上割合」。
「課税売上割合」が95%以上(かつ課税売上高が5億円以下)の場合だけ、「仕入税額控除」が全額可能ということになります。
したがって、まず、「課税売上割合」を利用する場面は、「消費税を全額控除できる事業者か?」を判断する際ということになります。
(2) 仕入税額控除の金額を算定する場面
課税売上割合が95%未満(又は課税売上高が5億円超)の場合、「課税売上割合」を用いて算出した金額を「仕入税額控除」することになります。具体的な計算方法は、Q55をご参照ください。
なお、消費税控除額の計算には、①個別対応方式、②一括比例方式という2種類があり、控除できない消費税は「控除対象外消費税等」と呼ばれます。
(3) 課税売上割合が著しく変動した場合
一定の固定資産につき、仕入税額控除の調整が必要な場合があります。詳しくは、Q57 調整対象固定資産をご参照ください。
3. 課税売上割合の算定方法
課税売上割合とは、売上に占める、課税売上(消費税が課される売上高)の占める割合のことです。式は以下となります。
(課税売上割合の計算式)
(POINT)
● 「課税売上割合」の算出にあたり、「非課税売上」は計算式の分母に含まれるが、「不課税売上」は計算式に含まれない点です。つまり、両者の区分は・・「課税売上割合」の計算という点で、非常に重要となります。
● 原則として、課税売上割合の「端数処理」は行いません。例外的に、任意の位で切り捨てすることは認められています
(消基通11-5-6)。四捨五入や切り上げは認められていません。
(1) 課税売上高って?
国内において、「事業者が事業として対価を得て行う課税資産の譲渡等」取引です。
ビジネス上の売上は、ほとんどが「課税売上」となります。
(2) 輸出免税売上高って?
国内からの輸出として行われる資産の譲渡等取引です。「輸出取引」は、海外で消費されるため消費税は0%となります。ただし、これは「たまたま海外で消費するから0%になるだけ」で、取引の中身自体は「課税売上」です。
つまり、「消費税0%が課されている課税取引」という理解をしてもらった方がわかりやすいかもしれません。
その結果、「課税売上割合」の計算上は、「課税売上」と同列に取り扱われます。
●また、例えば、国外預金利息・外国債の利子、非居住者貸付金利子等は「非課税資産の輸出取引」となり、これらは、課税売上割合の分子分母に算入します(消31)。
(3) 非課税売上高って?
「非課税売上」は、「本来は課税売上」だが、政策的な配慮や消費という概念になじまないなどの理由から、消費税が課せられない取引です。例えば、土地や有価証券の譲渡、預貯金や貸付金などの利息、社宅の従業員負担分などです。
「非課税売上高」は、消費税法上、限定列挙されています。
(4) 不課税売上高って?
「不課税売上高」は、そもそも消費税の対象とならない売上取引です。例えば、配当金の受取、保険金の受取損害賠償金の受取、寄付や贈与の受取などは、そもそも消費税の課税対象となりません。
この「不課税売上」は、上記計算式の中には出てきません。
つまり、「不課税売上」は、課税売上割合の計算上「無視できる」ということです!
(5) 値引・返品・貸倒などの取扱い
売上値引・売上返品、売上割引 | 「売上対価の返還等」のため課税売上割合の計算上、分母・分子とも控除 |
---|---|
貸倒金額や、貸倒後の債権回収額 | 「売上対価の返還等」ではないため、課税売上割合の計算上、控除しない |
●売上割引の内容は「利息的な性格」となりますが、消費税は、非課税取引ではなく、「売上対価の返還等」とされています(消38 消基通14-1-4)
●貸倒金額等自体は、課税売上割合の計算上は控除を行いませんが、貸倒の規定により、納付すべき消費税からの控除自体は可能です(消39)
4. 例外規定
●非課税売上に該当する取引のうち、有価証券等の譲渡、金銭債権の譲渡に関しては、売却価額の5%だけを分母に加算する例外があります。詳細はQ88をご参照ください。
5. 課税売上割合算定の具体例
● A社・B社の売上等の数値は下記の通り(すべて税抜)
(A社・B社で異なるのは、「社宅家賃」(非課税売上)の額のみ)
● それぞれの課税売上割合は?
消費税区分 | A社 | B社 | ||
---|---|---|---|---|
① | 国内売上 | 課税売上 | 1,000万 | 1,000万 |
② | 輸出売上 | 輸出免税売上 | 900万 | 900万 |
③ | 社宅家賃入金 | 非課税売上 | 100万 | 200万 |
④ | 課税売上割合 | 95% | 90.47% |
課税売上割合=( ①+② ) / ( ①+②+③ )
A社・・課税売上割合が95%以上のため、消費税額は全額控除可能。
B社・・課税売上割合が95%未満のため、消費税額の控除額が制限されます。
6. ご参考 課税売上割合に準ずる割合
例えば、イレギュラーに土地を売却した場合など、課税売上割合が事業内容の実態と合っていない場合、課税売上割合にかえて「課税売上割合に準ずる割合」で控除対象仕入税額が計算できます。(個別対応方式を採用している場合のみ)。この場合は合理的な基準(従業員数、従事日数、使用面積の割合など)により算定します。
ただし、上記2(1)全額仕入税額控除ができるかどうか?の判定(課税売上割合95%以上)は、「課税売上割合に準ずる割合」ではなく「課税売上割合」で判定する点に注意が必要です(基通11-5-9)。
なお、「課税売上割合に準ずる割合」の適用に当たっては、事前に税務署に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出、承認を受ける必要があります。
7.参照URL
(課税売上割合の計算方法)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6405.htm
(課税売上割合に準ずる割合が95%以上の場合の取扱い)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/17/15.htm
8. YouTube
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