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Q109【法人設立前の経費・売上】家賃や備品は法人で計上できるのか?/法人設立前の賃貸借契約・領収書は個人名義?実務上の取扱い

最終更新日:2023/11/17

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Q109 法人設立前の「経費」「売上」「契約書」などの取扱い

この記事は税理士/濱田隆祐により執筆されました。

公認会計士・税理士:濱田隆祐(はまだりゅうすけ)

濱田会計事務所の代表税理士
近畿税理士会 神戸支部:登録番号121899
日本公認会計士協会 兵庫会:登録番号17074
兵庫県行政書士会:登録番号19300373
1973年生まれ、大阪府豊中市出身
あずさ監査法人出身
クレアビズコンサルティング株式会社:代表取締役
YouTubeチャンネル:濱田会計事務所のちょっとお得な税金の豆知識
相続専門サイト:御影みらい相続センター

ビジネスを始める場合は、「設立登記」をまたずに、事前に準備を進めていくのが一般的だと思います。
 
したがって、「設立登記」前に仕入れる場合や、事務所家賃・光熱費等の経費が発生するケースもあります。
また、「設立前」に営業を行い、場合によったら「設立前に売上が決定」するケースもあるかもしれません。
 

こういった設立前に生じた損益は、法人設立前のため、個人事業主として「経費」や「収入」を計上するのか?と疑問が生じます。今回は、こういった設立前の「経費」や「売上」の取扱いにつき解説します。
 

今回の論点は、法人設立時の創立費や開業費とは異なります。創立費や開業費は、「法律上の登記費用」や、法人設立登記後、「特別に支出した費用」に限定されますので、設立前の仕入や家賃等は、これらには含まれません。
 

1. 法人設立前の支出や収入の取扱い

法人設立前は、法人格がありませんので、当然ですが、法人が取引主体になることはできません。
だからといって・・設立前の「経費」や「売上」を、個人事業主として計上するのも・・手間がかかります。

そこで、実務上の手間を考慮して、法人税上、「法人設立期間中の損益」につき、以下の規定が置かれています。
 

【法人税基本通達2-6-2】
法人の設立期間中に当該設立中の法人について生じた損益は、当該法人の、その設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することができるものとする。ただし、設立期間がその設立に通常要する期間を超えて長期にわたる場合における当該設立期間中の損益又は当該法人が個人事業を引き継いで設立されたものである場合における当該事業から生じた損益については、この限りでない
 

つまり・・法人設立期間中に生じた損益は、その法人の第1期の損益に含めて計上できるという規定です。
例えば、設立前に仕入れた商品代や、設立前の家賃などは、第1期の経費になります。
同様に、設立前に生じた「売上」も、第1期の売上として計上します。

なお、設立期間中に備品を購入した場合でも、あくまで取得日は「設立登記日」となります。したがって、減価償却は設立登記日から償却を開始します。
 

ただし、上記の規定は、法人の設立期間は、一般的に短期間で、かつ取引金額も多くないことを前提に「特別」に認められた規定です。したがって、①通常要する期間を超えた場合②個人事業を引き継いで設立された場合の当該事業から生じた損益はこの限りでない、とされています。以下、それぞれ解説します

 

2. 設立に通常要する期間とは?

「設立に通常要する期間」を越えて長期にわたる場合は、法人の第1期の損益に計上できません。
したがって、「通常要する期間」を越えた場合は、法人の第1期の損益にできないため、個人として損益として計上することになります。

この「通常要する期間」について、特に明文規定はありませんが、実務上、通常設立に要する期間は1か月程度であるため、概ね、1か月程度が「通常要する期間」と解釈されています。

 

3. 個人事業を引き継いで設立された場合の損益とは?

簡単に言うと、個人事業主が、「同じビジネスで法人成り」する場合は、法人の設立登記前の損益はすべて「個人の事業所得」として申告が必要ということになります。
以前から個人事業を展開している場合は、個人側の損益で計上するとしても、「実務上弊害がない」からです。

逆に、設立法人で行う事業が、個人事業で行っていたビジネスと関連のない「新たなビジネス」の場合は、設立期間中の損益も、法人の第1期の損益に含めて申告することが可能です。

なお、個人事業主時代に利用していた財産は、個人から法人への売却、賃貸という形で法人に移管することになります。詳しくはコチラをご参照ください。
 

4. 法人設立前の契約書・請求書・領収書などの名義・宛名は?

法人設立前に、法人名義の「契約書」や「請求書」を作成したり、法人名義の「領収書」を入手することはできるのでしょうか?例えば、設立前に事務所を借りておきたい場合もあると思います。
 

(1) 設立前の事務所賃貸借契約は?

設立前は「法人格」がありませんので、法人名義での賃貸借契約の締結はできません
現実的に、事務所等を会社名義で契約する場合は、会社の登記簿謄本(登記事項証明書)や印鑑証明書が必要ですので、物理的に不可能です。

したがって、実務上、設立前に事務所を借りる場合は、以下のパターンとなります。

①設立前は手付だけを支払い、設立登記後、必要書類を提出し、実際の契約は法人設立後に行う。
②設立前は個人名義で契約を行い、設立後に法人名義の契約に変更する(当該個人名義の賃貸借契約に、「法人設立後に契約を法人に移管する」旨の文言を入れておく)。

なお、個人名義での支払いになった場合でも、先ほどお伝えした通り、常識的な期間内であれば法人第1期の「経費」や「売上」に計上できる点は変わりません。
 

(2) 請求書や領収書は?

上記同様、設立前は「法人格」がありませんので、法人名義での請求書や領収書は作成できません。
領収書の宛名や請求書の発行人は、発起人個人名義となりますが、上記同様、合理的な期間内の費用であれば、設立後の会社の経費・売上とすることはできます。
 

(3) 設立費用にかかる司法書士等請求書は源泉所得税に注意

法人設立を司法書士様に依頼した場合、源泉徴収された請求書をもらうケースもあると思います。
個人の司法書士の場合は、司法書士報酬につき源泉徴収が必要となります。
司法書士に依頼した時点は、当然法人設立前ですが、請求書はおそらく「法人名義」で作成されているのが一般的です。

当該源泉徴収金額は、司法書士報酬を支払った月の「翌月10日まで」に税務署に納税する必要があります。
納税を失念するケースが多い論点ですので、ご留意ください。
(なお、「源泉所得税の納期特例」が有効になるのは、税務署に提出した「翌月」からとなりますので、設立時の司法書士報酬については、特例の適用ができないケースが多いです)
 

5. ご参考~法人口座開設前の売上は?~

最近は法人口座開設も、簡単にできなくなっており、開設までに時間がかかることも一般的です。
こういった場合、法人口座開設前に、売上が個人口座などに入金されるケースもあると思います。

これらの「個人口座」に入金された売上も、法人としての請求分(or法人設立前の常識の期間内の請求)であれば、当然、法人での売上となります。
売上の相手科目は、法人銀行口座ではありませんので、「現金」ないし「社長への貸付金」となります。

 

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6. YouTube

 

YouTubeで分かる「法人設立前の経費・売上」
 

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