税金の豆知識
Q112【わかりやすく解説】確定申告での個人事業主の損益通算とは?不動産所得や株の損失との相殺はできる?
最終更新日:2023/04/1334880view
法人と異なり、個人の所得税計算は、「収入」の種類によって計算方法が異なります(10種類あります)。
例えば、「給与収入」と、「株の売却」は、収入の種類が異なるので、所得税の計算方法が異なります。
また、原則的に、種類ごとに黒字、赤字が混在している場合でも、黒字と赤字を相殺することはできません。つまり、赤字と黒字の所得を合算して「総所得を減らす(=税金を下げる)」ことは、原則的に認められていないんですね。
(例)「給料所得」黒字1,000万・「株の譲渡」赤字1,000万の場合
⇒黒字と赤字を相殺して「所得をゼロ」にすることはできません。
ただし、例外的に、黒字と赤字を相殺できる場合が認められています。
これが「損益通算」と呼ばれるものです。損益通算を行うと、税金が安くなりますよ!
目次
1.損益通算とは?
損益通算とは、赤字(損失額)の所得と黒字(利益)の所得を相殺する制度です。
損益通算は、例外的に認められていますので、損益通算ができる所得は、以下の4つの所得の「赤字」に限定されています。
(1) 損益通算できる所得
事業所得 | 事業から発生する所得 |
---|---|
不動産所得(※1) | 不動産(土地や建物)の貸付で発生する所得 |
総合課税の譲渡所得 (※2)(※3) | 資産を譲渡した際に発生する所得 (土地建物、株式、生活に通常必要でない資産以外) |
山林所得 | 山林を伐採して譲渡(or立木のまま譲渡)で発生する所得 |
(※1) 不動産所得赤字のうち、土地等取得時の借入金利子は「損益通算」不可
(※2) 土地建物・株式は分離課税のため対象外(後述「居住用不動産」のみ例外)
(※3) ゴルフ会員権、別荘、書画、骨とう品など「生活に通常必要でない資産」の譲渡損失は「損益通算」不可。
なお、生活用動産の譲渡などは、そもそも「非課税」のため、「損益通算」対象外。
(2) 損益通算できない所得
例えば、損失が生じる所得でも「一時所得」「雑所得」は損益通算できません!
これらの所得は、赤字でも、他の所得(事業所得など)と損益通算できない点にご留意ください。
(雑所得の例)
総合課税のビットコイン、分離課税のFXなどです。
(3) 内部通算は可能
なお、損益通算ではなく、同じ所得内での「内部通算」は可能です。例えば、総合課税の雑所得(例 分離課税同士の国内FX等、総合課税同士の仮想通貨等)は「内部通算可能」です。
2.具体例・税額へのインパクト
(1) 損益通算できる場合
(例題)
● 給与所得は500万円
● 事業所得は△500万円
● その他の所得はないものとする
(回答)
金額 | |
給与所得 | 500万円 |
事業所得 | △500万円 |
損益通算後所得 | 0万円 |
税額(所得税+住民税 | 0万円 |
事業所得の赤字は「損益通算可能」ですので、給与所得と相殺し、相殺後の所得は0円となるため、税金は発生しない。
(2) 損益通算できない場合
(例題)
● 給与所得は500万円
● 雑所得(国内FX)は赤字500万円
● 所得控除が100万円あるものとする。
(回答)
金額 | |
給与所得 | 500万円 |
雑所得 | △500万円 |
損益通算後所得 | 500万円 |
税額(所得税+住民税 | 77万円 |
雑所得赤字は「損益通算不可」ですので、給与所得と相殺できないため、給与所得500万円に対する税額が課税される。
(3)結論
どうですか?損益通算できる所得と、そうでない所得では、税額がだいぶ異なってきますよね。。
3.損益通算の特例
実は・・上記4つ以外にも「損益通算」が認められる特例 があります。以下の2つです。
(1) マイホームの譲渡損失の特例
土地建物・株式の譲渡は「分離課税」ですので、原則として損益通算の対象外となりますが、「マイホームの譲渡損失」については、損益通算が認められる特例があります。また、損益通算の後、なお余った損失は、「3年間の繰越控除」も可能です。
(2) 上場株式の譲渡損失と配当所得との損益通算の特例
上場株式の譲渡損失VS配当所得、公社債等の譲渡所得、利子所得については、損益通算が認められる特例があります(配当所得は「申告分離課税」選択の場合に限る)。
4.損益通算の順番
損益通算が可能な、4つの所得(不動産、事業、総合譲渡、山林所得)の赤字は、大きく、次の考え方で損益通算を行います(法69、令198)。
①性質の近い所得で区分し、それぞれの「所得グループ内」でまず損益通算
②次に「その他の種類の所得」で損益通算
繰り返しますが、「損益通算」ができる所得は上記4つに限定されていますので、下記表内で「損益通算」の対象となる所得は「赤字」で表記しています。
第1グループ(経常所得) | 不動産所得・事業所得・利子所得・総合課税の配当所得・給与所得・総合課税の雑所得 |
---|---|
第2グループ | 総合課税の譲渡所得・一時所得(&分離課税の居住用不動産譲渡損) |
第3グループ | 山林所得 |
第4グループ | 退職所得 |
(1) 第1ステップ
第1グループ、第2グループ内でそれぞれ「損益通算」を行います。
第2グループ内で「一時所得」と通算する場合、50万円特別控除後で、2分の1前の金額と通算する点注意(所法22)。
(2) 第2ステップ
上記の結果、まだ赤字が残る場合は、第1グループと第2グループで「損益通算」を行います。
順番は、総合短期譲渡⇒総合長期譲渡⇒一時所得の順に差引いていきます。
(3) 第3ステップ
第2ステップの結果、まだ赤字が残る場合には、「山林所得」と損益通算します。
(4) 第4ステップ
第3ステップの結果、まだ赤字が残る場合には、「退職所得」と損益通算します。
上記の損益通算の後、なお引ききれない損失がある場合は、「純損失」となり、青色申告の場合は、損失の繰越が可能となります。
5.白色申告の場合は?
「損益通算」は、青色申告に限られていませんので、「白色申告」でも可能です。