行政書士
合同会社
1.合同会社とは
合同会社とは、経営者と出資者が同一かつ、出資者全員が有限責任社員の会社です。
2006年に創設された、比較的新しい会社の概念です(LCCとも呼ばれます)
2.合同会社の特徴
合同会社の特徴は、下記の4つです
(1)出資者と経営者が同一(所有と経営の一致)
株式会社は、「出資者≠経営者」であるのに対し、合同会社は「出資者=経営者」ですので、出資者に経営者が縛られることなく「迅速に意思決定が行える」点が特徴です。
ただし、株式会社でも1人の会社の場合は、「経営者=出資者」となりますので、この点に関しての違いはありません。
(2)利益配分が自由
株式会社は、利益分配は「出資割合」に応じて行いますが、合同会社の場合は、定款で定めることで、「出資割合以外」の基準で行うことが可能です 例えば、職務内容や、会社への貢献度に応じた配分も可能となります。
(3)設立費用や登記・公告コストが安い
合同会社の場合、設立時の定款認証が不要ですし、登録免許税も株式会社と比べると安くなります。
また、公告義務はなく、役員任期もありませんので、役員改選にかかる「登記代」などもがかかりません。
(4)出資者全員が間接有限責任
ここは、株式会社と同様の特徴となります。出資者全員が「間接有限責任」であるという点です。
仮に会社が倒産しても、出資者は出資額以上の責任は負わないため、リスクは限定されます。
(個人事業主の場合は無限責任)
3.合同会社のメリットとデメリット
合同会社のメリットとデメリットを、個人・合同会社と比較します。
メリットのある方に色を付けています。
(1)個人と比較
合同会社 | 個人 | |
---|---|---|
社会的信用度 | 高い | 低い |
出資者の責任 | 出資者は有限責任 | 事業主は無限責任 |
設立・解散手続 | 設立・解散ともに手間がかかる | 簡単(開業届・廃業届を提出するのみ) |
設立・解散費用 | 高い | 0円 |
決算処理 | 個人と比較すると複雑 | 普通 |
税金 | ●赤字繰越期間 10年 ●本人・家族への給料を損金可 ●税率は固定 (実効税率約30~35%) ●経費の範囲は広い | ●赤字繰越期間 3年 ●本人、家族への給料は損金不可 ●所得に応じた累進課税 (最高実効税率55%程度) ●経費の範囲は狭い |
税金(均等割) | 赤字でも均等割の負担がある (7万円程度) | 赤字の場合、税金はゼロ |
保険・年金 | 健康保険・厚生年金 | 国民健康保険・国民年金 |
その他 | 法人に限定される取引も可 (ネットショッピングモールなど) | 社会保険に加入できない |
選択される方々の特徴 | 取引先との信頼関係上、法人の必要がある方 | 手軽にビジネスを始めたい方 |
●保険・年金の観点では、法人・個人どちらがお得か?は、一概には言えません。 例えば、お一人で経営される法人の場合は、ご自身の負担額だけを考えればよいので、厚生年金は、国民年金の上乗せ部分となり、将来の「返戻金」の面ではお得とも言えます。 一方、従業員がいる場合は、従業員部分の「会社負担額」がありますので、法人の方が負担額は高くなります。
(2)株式会社と比較
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
信用度 | 合同会社よりも一般的 | 認知度は低い |
出資者の責任 | 出資者は有限責任 | 同左 |
最低資本金 | 1円以上 | 1円以上 |
代表者の名称 | 代表取締役 | 代表社員 |
議決権 | 持ち株数に応じた議決権 | 社員1人に1議決権 |
設立・解散手続 | 手間がかかる | 手間は少ない(設立時の定款認証不要) |
設立費用 | 高い ●登録免許税最低15万円 ●定款認証手数料5万円 | 安い ●登録免許税最低額6万円 ●定款認証不要(手数料0円) |
公告義務 | あり | なし |
社員(取締役)の任期 | 最大10年(譲渡制限ある会社) | なし |
利益配分の自由度 | 低い(出資に応じた配分のみ) | 高い(定款で配分比率定めOK) |
意思決定 | 出資者≠経営者の場合は、意思決定が遅れる場合あり | 出資者=経営者のため、意思決定は早い |
役員任期 | あり | なし(定款で定めない限り) ⇒定款書換手数料なし |
ファイナンス | 株発行で大量な資金調達可能 | 株式ではないため、大量の資金調達は難しい |
その他 | 将来株式公開も可能 | ●株式公開はできない ●出資者退社により出資額(資本)が減少する場合あり |
●税務上の決算処理、税率などに両者の違いはありません。 ●社会保険についても、両者の違いはありません。
4.どういう場合に合同会社を選択?
合同会社は、利益配分についての自由度がありますので、例えば、「資金力はないが、専門ノウハウを保有する人」なども、社員として集めやすくなります。
また、所有と経営が一致しているため、意思決定に時間がかからない、例えば、アイデアをスピーディに具体化したい場合なども、適合する会社形態です。
どういった場合に合同会社を設立するか?以下、特徴ごとにまとめます。
(1)合同会社に向いている企業
特徴 | 向いている業種 |
---|---|
所有と経営が一致 迅速な意思決定が迅速 | ●自分のアイデアをスピーディに具体化したい場合や、個人のネームバリュー・実績等がある場合など (例)プログラマー・コンサルタント・デザイナー・起業家同士が提携して立ち上げる合弁会社など |
利益配分が自由 | ●資金力がなくても、平等な発言権を保有してもらいたい場合。 (例)専門ノウハウを保有する方に参加してもらいたい場合。共同研究企業、コンサル会社など。 |
信頼度 | ●株式会社に比べると知名度は低いため、社名が全面的に出ないビジネスなど。 (例)店舗名が先に出る消費者向けのビジネス(飲食店、サロン、介護、学習塾など)。 |
設立コスト等が安い | ●とりあえず法人を設立したい場合。 (例)許認可や、インターネットモール等の関係で、法人格が必要だが、会社形態にはこだわりがない場合。 外部との取引が少ないスモールビジネス(資産管理会社・不動産賃貸経営・シニアや主婦の起業等) |
(2)合同会社に向いていない企業
特徴 | 向いていない業種 |
---|---|
所有と経営が一致 | ●所有と経営が一致しているため、「大量の資金調達」を必要とするビジネスには向いていない。 (例)設備投資が多いメーカー、将来上場予定の会社など |
信頼度 | ●法人の取引先が多い場合は、取引先が、取引相手の会社形態を気にする場合がある。 |
とはいっても、後から株式会社に組織変更も可能ですので、最初は、合同会社を選択し、経営が軌道に乗ってきたタイミングで「株式会社に移行」するのもありですね。
5.合同会社運営の留意事項
(1)「業務執行社員」の指定
合同会社は、原則として、社員全員が業務執行権(=代表権)を保有していますので、社員数が多い場合には、意思決定の合意形成のハードルが高くなります。
そこで、複数の出資者がいる場合は、定款で、「業務執行権を有する社員」と「有しない社員(出資のみ行う社員)」の定めを行い、業務執行権を有する社員だけに「議決権」を持たせることで、意思決定を迅速に行うことが可能となります。
また、意思決定方法、例えば「多数決で決定」なども、定款で定めることができます。
このように、合同会社は、定款で自由に定めることができる点、柔軟性が高い組織です。
(2)利益の分配方法
利益の分配は、原則「出資割合」に応じて行いますが、定款の定めにより、出資額以外の「自由な分配方法」を選択できます。例えば、職務に応じた分配なども可能です。
どういう基準で分配するか?を「定款」で決めておくこともよいですね。
(3)社員の入退社
①入社
合同会社の社員(出資者)になるには、以下の手続きが必要です。
●出資金の払い込み
●定款の変更(定款の変更は、原則として出資者全員の同意)
出資の払い込みではなく、現社員の持分を譲渡する方法でも社員になることは可能です。
この場合でも、定款の変更は必要となります(社員全員の同意)。
②退社
やむを得ない場合、社員は自由に合同会社を退社することができます。
退社時には、法人から出資金を返却することになりますので、会計上の「出資額(資本)」が減少します。
また、合同会社では、社員の退社事由が定められていて、死亡、破産手続き開始の決定がされた場合なども、自動的に退社となります。ただ、これらの場合でも、事前に定款で定めておくことで、社員として会社に残ることも可能ですので、定款で柔軟に対応できる点が特徴的です。
(4)相続はできない
合同会社では、社員が死亡すると自動的に退社となり(会社法607条)、社員1人の合同会社では、死亡により合同会社も「解散」となります。
株式会社の場合は、株主が死亡した場合、相続人にその地位が相続されますが、合同会社では出資者である社員が死亡しても、原則として、相続人が社員の地位を引き継ぐことはできません(持分の払戻請求権を相続するのみ)。
解散リスクを回避するためには、社員が死亡した場合には、相続人にその持分を承継させるように、定款に定めておくこともできます(会社法608条)。
(5)解散
定款で定めた「解散事由」が発生した時や、全社員が解散に同意した場合は、合同会社は解散となります。
また、定款で「存続期間」を定めることもでき、存続期間が満了した場合も、合同会社は解散となります。
(6)合同会社の税務・助成金
税務、助成金等については、株式会社と変わるところはありません。
6.合同会社の設立の流れ
(1)設立費用・設立に要する期間
●実費として最低6万円程度はかかります。実費と司法書士等手数料を合わせると、概ね11~15万程度かと思います。
●設立に要する期間は、おおむね1,2週間程度です。
(2)合同会社設立の流れ
①定款の作成
●定款とは、事業目的や根本規則などを規定したものです。設立時には必ず作成しないといけません。
●合同会社は、定款自治の範囲が広く、会社の組織設計や利益配分等を自由に定めることができますので、株式会社よりも重要な書類となります。
●合同会社の設立では、公証役場での認証の必要はありません。絶対的記載事項の記載があれば、登記も可能です。
●定款には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、記載しなければ効力が生じない「相対的記載事項」、任意に定款に記載しておける「任意的記載事項」があります。
(絶対的記載事項)
絶対的記載事項は、1つでも欠けていると、定款全体が無効となります。
特に、合同会社の場合は、公証人の認証がない分、自己チェックが非常に大事になります。
●事業目的
●商号
●本店の所在地(最小行政区画でOK)
●社員の氏名及び住所(法人の社員も認められる)
●社員は全員有限責任であること
●社員の出資の目的及びその価額等
(相対的記載事項・任意的記載事項)
定款で定めなければ、法の条文通りの効力が発生しますので、法の効力を変更したい場合は、定款で「相対的記載事項」を定めます。記載しておかなければ効力が生じないものですので、絶対的記載事項と同じくらい、大切な事項となります。
その他、任意に記載できる「任意的記載事項」があります。
代表例を記載します(他にもたくさんあります)。
●業務執行社員の定め
●代表社員の定め
●社員の退社事由の定め
●出資の払戻方法の定め
●会社の存続期間の定め
●会社の解散事由の定め
●社員の利益配当や損益分配の定め
●残余財産の分配の定め
②資本金の払込
払込 | 資本金を代表社員個人の銀行口座へ払込みます。 |
---|---|
書類作成 | 「払込証明書」を作成し、払込後の通帳コピー (表紙、表紙裏、振込金額記載ページ)を綴じて、割り印。 |
(注意事項)
●通帳は、既存の個人の通帳でOK。払込の根拠が残るよう「通帳が発行されるタイプの銀行」
振込方法は、氏名が履歴で残る「振込」で行います(ネットバンクでの振込も可能です)。
●ここでの印鑑(払込証明書や割り印)は、個人実印ではなく、「会社の実印」、つまり代表社員印です。
③代表役員の就任承諾書の入手
定款で代表社員を定めている場合 | 不要(※) |
---|---|
定款の定めに基づく社員の互選によって代表社員を定めたとき | 必要 |
(※)当該代表社員が、定款に実印で記名押印している必要があります。
(司法書士等の代理人が定款を作成した場合は、就任承諾書が必要)。
④登記申請書類の作成&提出
事務所所在地を管轄する法務局に、設立登記書類を提出します。
必要書類 | 留意事項 |
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設立登記申請書+印紙貼付台紙 | 登録免許税 (最低6万円) |
定款 | ●公証人認証の必要はなし。 ●電子認証の場合はCDR等で提出。 |
払込証明書 | 通帳コピーと綴じたものを提出 |
代表社員、本店所在地及び資本金決定書 | ●定款で本店所在地を定めている場合は、不要。 ●定款で、本店所在地を最小行政区(例 港区など)までしか定めなかった場合には、本店の具体的な所在地を記載。 ●社員が1名の場合には代表社員決定書は不要。 |
代表社員の就任承諾書 | ●社員1名の場合は、就任承諾書は不要。 |
印鑑証明書 | ●代表の印鑑証明書でOK。 |
印鑑届出書 | ●法人印鑑(代表者実印)を届出する書類。 |
登記事項を記録したCDRなど | 申請書に記載する事項のうち、登記すべき事項を、CD-R等に保存して提出。 |
登記申請書類を提出して、約1~2週間で登記が完了し、合同会社の設立が完了します。
⑤税金・社会保険・労働保険関係の届出
法人設立完了後、税務署、県税事務所、市役所、年金事務所、労働局、ハローワークなどに、それぞれ提出物があります。詳しくは、Q99をご参照ください。