行政書士

NPO法人

1.NPO法人とは?

NPO法人とは、Non Profit Organizationの略、「特定非営利活動法人」と呼ばれます。
震災や災害関連の報道などで、よく出てくる名前ですね。



「利益を目的とせず、公益を追求する組織」、民間会社などができない領域にサービスを提供し、不特定多数の人の利益に寄与する法人となります。


2.NPO法人の特徴

NPO法人の特徴は、下記の6つです

(1)事業が限定される

主たる事業は「非営利事業」である必要があります。
内閣府で、「特定非営利活動」として、20種類の分野が定められており、活動は限定されています。



(20種類の分野)

1.保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2.社会教育の推進を図る活動
3. まちづくりの推進を図る活動
4. 観光の振興を図る活動
5. 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
6. 学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
7. 環境の保全を図る活動
8. 災害救援活動
9. 地域安全活動
10. 人権の擁護又は平和の推進を図る活動
11. 国際協力の活動
12. 男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
13. 子どもの健全育成を図る活動
14. 情報化社会の発展を図る活動
15. 科学技術の振興を図る活動
16. 経済活動の活性化を図る活動
17. 職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
18. 消費者の保護を図る活動
19. 前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
20. 前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動


(2)所轄庁による監督・情報開示

法人は、公益を追求するという目的から「所轄庁による監督・情報開示」が義務づけられている点に特徴があります。


設立時所轄庁の許認可が必要
毎事業年度終了後3か月以内に、事業報告書等を所轄庁に提出
随時監督する所轄庁は、法令違反等一定の場合には検査、報告、改善措置を求めたり、認証取消しを行う。
その他定款の変更等は、株式会社と比べると時間がかかる。

(3)剰余金の分配は不可

法人は営利を目的としない法人ですが、「収益事業」を行うこと自体は可能です。
ただし、獲得した利益は、主たる事業である「特定非営利活動に係る事業」の運営のために利用する必要があり、株式会社等のような「剰余金の分配」はできません。



(4)収益事業のみに税金がかかる

「収益事業」については、他の会社と同様、税金がかかります。
営利を目的としない法人ですので、収益事業には、以下の制約があります。



●収益事業は、「従たる事業」である必要があり、総支出の5割以内。
●「主たる事業」と「収益事業(その他の事業)」は、会計上「区分経理」が必要。



(5)設立時に必要な人数が多い

設立時に社員10名、理事3名、監事1名が必要となります。通常の株式会社等と比べると、圧倒的に多いです。
また、社員の議決権は、出資金額ではなく、1人1票を保有していますので、人数が多い分、意思決定の合意形成のハードルは高くなります。



(6)役員の親族制限規定(特定非営利活動促進法 第21条)

法人は公益性が高いため、親族(※)による支配を排除する観点で、「親族制限規定」が設けられています。



役員総数が5名以下親族は、1人も入れたら×
役員総数が6名以上各役員につき、1名までの親族を入れることができる

(※)親族とは、配偶者及び3親等以内の親族をさします。



3. NPO法人のメリットとデメリット

NPO法人のメリットとデメリットを、個人や他の法人と比較します。 メリットのある方に色を付けています。

(1)個人と比較

NPO法人個人
社会的信用度高い低い
出資者の責任出資がないため責任なし事業主は無限責任
名義法人名義で契約可能個人名義での契約のみ
設立手続複雑(所轄省の許認可が必要)簡単(開業届のみ)
設立に必要な実費0円0円
決算処理個人と比較すると複雑普通
税金●赤字繰越期間 10年 ●本人・家族への給料損金可 ●税率は固定 (実効税率約30~35%) ●経費の範囲は広い●赤字繰越期間 3年 ●本人、家族への給料損金不可 ●所得に応じた累進課税 (最高実効税率55%程度) ●経費の範囲は狭い
税金(均等割)赤字でも均等割の負担あり (7万円程度)赤字の場合、税金はゼロ

(2)一般社団法人と比較

NPO法人一般社団法人
設立に要する期間5か月程度(認証あり)2週間程度(認証なし)
設立に必要な実費なし11~15万円
設立時の社員数10名以上(理事3、監事1名以上)2人以上(理事1名以上)
役員の親族規定ありなし
活動内容の制限特定非営利活動のみ制限なし
剰余金の分配できないできない
所轄庁への決算書報告義務・公衆縦覧ありなし
補助金多い普通
税金収益事業のみ収益事業のみ(非営利型の場合)
ステップアップ認定NPO法人公益社団法人

(3)株式会社と比較

NPO法人一般の株式会社
社会的信用度高い普通
設立に要する期間5か月程度2週間程度
設立に必要な実費なし20万円程度
設立時の準備資金資本金不要最低1円必要
設立時の社員数10名以上(理事3、監事1名以上)1名から可
役員の親族規定ありなし
税金収益事業のみかかるすべてに対してかかる
補助金・国の支援多い普通
借入金基本できない業績に応じて可能
活動の制限ありなし
剰余金の分配できないできる
決算書公衆に縦覧される class=”td_red”>公衆の縦覧はなし
決算書種類事業報告書 収支計算書 貸借対照表 財産目録損益計算書 貸借対照表 株主資本等変動計算書 注記表

4.NPO法人運営の留意事項


(1)事業年度・定時社員総会

年に1度、決算を行う必要があります。 事業年度終了後2か月以内に「定時社員総会」で決算の承認を行い、税務署に確定申告書を提出します。 また、毎事業年度終了後3ヶ月以内に、前年度「事業報告書等」や「役員名簿」を、所轄庁に提出しなければいけません。


(2)機関設計

社員10名以上、理事3名以上、監事1名以上が必要となります。 なお、「理事会」は、設置しないことも可能です。


(3)税制

「収益事業」に対してのみ課税されますので、税法上は優遇されています。 詳しくは、Q101をご参照ください。


(4)収入源や助成金は?

収入源は、会費や寄付金収入、助成金、事業収入などがメインになります。 NPO法人の助成金は、一般社団法人、一般財団法人と比べると多いです。 詳しくは、 Q166をご参照ください。


(5)給与・報酬支給

●剰余金の分配はできませんが、従業員等に対して、給与や報酬の支給は可能です。
●NPO法人の役員報酬は、理事・監事総数の3分の1以下の人数しか報酬を受けることができません。
(従業員兼務の役員様は、「従業員部分」の給料の支給は可能)
ただし、NPO法人の監事については「職員」と兼務ができませんので、監事の方には「従業員兼務部分の給料」自体が存在しない点、注意しましょう。


(6)NPO法人の認証取消

NPO法人は、一定の場合、所轄庁から「認証の取消」をされる場合があります。詳しくは、Q25をご参照ください。


5. NPO法人設立の流れ


(1)設立費用

株式会社などと異なり、登録免許税、定款認証手数料などの実費はかかりません
ただし、NPO法人の場合、「認証のための申請書類」が多いため、司法書士など外部に設立を依頼する場合の手数料は、一般的に、株式会社の設立費用よりも高くなります
ですので、外部に依頼する場合は、「設立費用総額」が安く収まるわけではありません。


(2)設立に要する期間

所轄庁の審査・認証手続きがありますので、資料作成時間も含めると、設立までに5か月程度の時間がかかります。


(3)NPO法人設立の流れ

①設立総会の開催

設立当初の社員が集まり、定款や事業計画、運営ルールについて決議します。


②定款作成

●定款とは、事業目的や根本規則などを規定したものです。設立時には必ず作成しないといけません。
●定款には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」と、記載しなければ効力が生じない「相対的記載事項」、任意に定款に記載しておける「任意的記載事項」があります。


(絶対的記載事項) 特定非営利活動促進法第11条

「絶対的記載事項」は、1つでも欠けていると、定款全体が無効となります。


●目的
●名称
●特定非営利活動の種類と特定非営利活動に係る事業の種類
●主たる事務所及びその他の事務所の所在地
●社員の資格の得喪に関する事項
●役員に関する事項
●会議に関する事項
●資産に関する事項
●会計に関する事項
●事業年度
●その他の事業に関する事項(その他の事業を行う場合のみ)
●解散に関する事項
●定款の変更に関する事項
●公告の方法
●設立当初の役員(法第11条第2項)
●役員の任期(法第24条)
●総会の招集方法(法第14条の4)


(相対的記載事項・任意的記載事項) 

定款で定めなければ法の条文通りの効力が発生しますので、法の効力を変更したい場合は、定款で「相対的記載事項」を定めます。記載しておかなければ効力が生じないものですので「絶対的記載事項」と同じくらい、大切な事項となります。


代表例を記載します(他にもたくさんあります)


●理事の代表権の制限(第16条)
●理事による法人の業務の決定の方法(第17条)
●定款の変更に係わる特別多数要件の変更(第25条第2項)
●社員による臨時総会の開催の請求に必要な社員数(第30条、民法61条)


③設立認証書類の作成&申請

NPO法人特有の論点として、所轄庁による設立認証があります。
株式会社等のような定款の「公証人による認証」ではなく、「所轄庁」の認証が必要となります。
認証申請書類は多いため、一度で受理されることは少なく、時間がかかることが多いです。


(認証申請時に必要な書類)

①NPO法人設立認証申請書
②定款
③役員名簿
④各役員の就任承諾書及び宣誓書の写し
⑤役員の住所又は居所を証する書面
⑥社員のうち10人以上の者の名簿
⑦団体確認書
⑧設立趣旨書
⑨設立についての意思の決定を証する議事録
⑩設立当初の事業年度及び翌事業年度の事業計画書・収支予算書
⑪法人実印、役員の住民票


(提出先)

原則として、主たる事務所が所在する都道府県知事 (2つ以上の都道府県に事務所を設ける場合は、内閣府が窓口)

時間がかかるのは、⑩になります。まずは⑩の「事業計画書、収支予算書」の作成から取りかかるのがよいと思います。


④所轄庁による審査・公告・縦覧及び閲覧
最初の2か月申請書添付の②定款③役員名簿⑧設立趣旨書⑩事業計画書・収支予算書は公衆に縦覧されます
(=誰でも閲覧が可能となる)
その後の2か月その後、2か月以内に認証・不認証が決定され、認証書あるいは、不認証の場合は、理由を記載した書面が届きます。

●不認証の場合でも、修正の上再申請は可能ですが、再度、公衆縦覧と審査を受ける必要があります。


⑤登記申請書類の作成&提出

認証書到達後2週間以内に、事務所所在地を管轄する法務局に、設立登記書類を提出します。


必要書類留意事項
設立登記申請書登録免許税 は不要
定款●所轄庁で認証を受けた定款。
原本証明必要(※)
NPO法人設立認証書のコピー●所轄庁で認証を受けた法人設立の認証書。
原本証明必要(※)
資産の総額を証する書面の写し●設立当初の財産目録。
原本証明必要(※)
主たる事務所の所在場所決定決議書●定款で主たる事務所所在地を定めている場合は不要。
●定款で、主たる事務所所在地を最小行政区(例 港区など)までしか定めなかった場合には、主たる事務所の具体的所在地を決議し、議事録を提出。
設立時役員の就任承諾書及び宣誓書の写し●認証時に提出したもの。
原本証明必要(※)
印鑑証明書●代表者(理事)の個人の印鑑証明書。
印鑑届出書●法人印鑑(代表理事実印)を届出する書類。
登記事項を記録したCDRなど●申請書に記載する事項のうち、登記すべき事項を、CD-R等に保存して提出。

(※)原本証明とは? 原本と相違ないことを、理事が手書きで記載するものです。


(原本証明の例)

上記は原本と相違ないことを証明します。


平成〇〇年〇〇月〇〇日
特定非営利活動法人 ○○○○○ 理事    0000 法人印

登記申請書類を提出して、約1~2週間で登記が完了し、NPO法人の設立が完了します。


⑥法人設立後の所轄庁への届け出

以下の書類を、NPO法人設立後、2か月以内に提出する必要があります。


(法人設立後に提出する資料)

●設立登記完了届出書
●登記事項証明書原本&写し(※)
●設立時の財産目録(※)

(※)認証時の定款とあわせて、公衆閲覧用の書類になります。

⑦税金・社会保険・労働保険関係の届出

法人設立完了後、税務署、県税事務所、市役所、年金事務所、労働局、ハローワークなどに、それぞれ提出物があります。
詳しくは、Q99をご参照ください。

⑧毎年の報告(ご参考)

毎年、事業年度終了後3か月以内に、以下の書類を所轄庁に提出する必要があります。

●前事業年度の事業報告書
●前事業年度の収支計算書・貸借対照表・財産目録
●前事業年度の役員名簿、社員10人以上の名簿